書評:『高橋是清と井上準之助―インフレか、デフレか』を読んだ

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書評

2021年現在、アベノミクスから続いたゼロ金利・積極財政が続いています。

MMTなどのさらなる積極財政が必要だという人もいれば、こんなに政府の借金が膨らんでは危ないという人も存在しており、その意見は激しく割れています。

本書は、似たような論争が繰り広げられた戦前昭和の日本において活躍した2人の金融・財政エリートに焦点をあてたものです。1人は積極財政・インフレ的な政策を支持した高橋是清、もう1人は緊縮財政・デフレ的な政策を支持した井上準之助です。

高橋是清が日銀時代に抜擢して引き揚げた井上準之助は、後に協力をするときもあれば、激しく対立するときもある、ライバルとなっていきます。2人はともに日銀総裁まで務めた金融エリートでもあり、後に政界に転身して大蔵大臣(現在の財務大臣)を務めてた大物政治家でもありました。

本書では、それぞれの行ったデフレ的な政策とインフレ的な政策がどのような顛末に行き着いたのかが描かれています。

井上準之助が行ったデフレ的な政策は、昭和恐慌を招き、最終的に井上準之助は市民の恨みを買って暗殺されてしまいます。一方、その後にインフレ的な政策を行った高橋是清は昭和恐慌を切り抜けて、日本を景気回復に導くことに成功したものの、景気回復後に金融・財政の引き締めを試みたところ、予算拡大を希望していた軍部に疎まれて二・二六事件で暗殺されてしまいます。その後、日本の財政は歯止めが効かなくなり、軍部が無限に赤字国債を発行したため、戦後のハイパーインフレに繋がりました

現在、日本は日銀が国債を購入した上で保有するという、高橋是清以上の政策を行っており、政府の借金はGDP比率でみて戦前並に膨れ上がっています。一方で、インフレ率をみる限り、目先のインフレの心配は感じられません。

もしも今後、実際に物価がインフレしはじめたときに、果たして日本は適切に金融・財政を引き締められるのでしょうか。もしくは、デフレを切り抜けたものの歯止めが効かなくなったという高橋是清の失敗の二の舞になってしまうのでしょうか。いずれにせよ、「歴史は韻を踏む」と言います。似たような過去の歴史を知っておくことは、将来を考える上での参考になるでしょう。そういった意味で、本書はとても興味深く読むことができました。

また、高橋是清と井上準之助という2人の人生も描かれているため、伝記的な楽しみ方もできて一石二鳥です。高橋是清の名前は聞いたけど、あまり詳しく何をした人かは知らないという方も、ぜひ一度読んでみてください。

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『高橋是清と井上準之助―インフレか、デフレか』

いまの日本に必要なのは、国債バラマキか、それとも財政緊縮か。昭和のはじめ、同じ問題に直面していた。インフレ政策の高橋是清と、デフレ政策の井上準之助。だが、ともに劇薬の扱いを誤り、この国を悲劇へと導いた―渾身の歴史経済ノンフィクション。

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