自由貿易とは?メリットとデメリットを簡単にわかりやすく解説

自由貿易のメリットとデメリットを分かりやすく解説

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はじめに

どうも、RAq(@raq_reezy)です。

今回は、以前に以下の記事でも紹介した『絶望を希望に変える経済学』において、自由貿易のメリット・デメリットについて詳しく説明されていたので、そちらの内容を中心に、自由貿易について分かりやすく解説します。

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2020年12月6日

この記事を最後まで読んでいただくと、以下のようなことが分かります。

  • そもそも自由貿易ってなに?
  • 自由貿易のメリットはなに?生活が豊かになるの?
  • 自由貿易のデメリットはなに?格差が拡大するの?
  • 自由貿易のデメリットはどのように対策すべきなの?

それでは、内容に入っていきましょう。

自由貿易とは

自由貿易と保護貿易

自由貿易とは、なるべく貿易の障壁をなくそうという考え方です。

たとえば、特定の商品の輸入・輸出の禁止や制限、もしくは輸入品に対しての関税、こういったものを無くしていくことで、もっと貿易をやりやすくしようというのが、自由貿易の考え方です。

これに対して、貿易をコントロールしようという考え方が保護貿易です。

たとえば、自国の米農家を守ために、海外からのお米には高い関税をかけて、値段の安いお米が国内に入ってこないようにしようといった政策が保護貿易です。

自由貿易協定(FTA)とは

ある2つの国が「お互いの間での貿易は、自由貿易にしていこう」と同意したとき、これらの国では自由貿易協定(FTA)を結ぶのが一般的です。

FTAを締結すると、その後の一定期間の間に、関税などが原則撤廃されて、自由貿易が行われるようになります。

FTAは、日本貿易振興機構(JETRO)のウェブサイトによると、以下のように説明されています。

FTA(自由貿易協定)は、2カ国以上の国や地域が相互に関税や輸入割当などその他の貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃あるいは削減することを定めた協定です。関税や非関税障壁をなくすことで締結国・地域の間で自由な貿易を実現し、貿易や投資の拡大を目指すものです。FTA相手国と取引のある企業にとっては、無税で輸出入ができるようになる、消費者にとっても相手国産の製品や食品などが安く手に入るようになるなどのメリットが得られます。近年締結されるFTAは多くの場合、関税やサービス貿易の自由化だけでなく、投資、知的財産権、貿易の技術的障害(TBT)など幅広い分野をカバーしています。

JETROのウェブサイトより

自由貿易のメリットをわかりやすく解説

生産量が増える(比較優位論)

自由貿易を推進する一番のメリットとされているのが、デイビッド・リカードが提唱した「比較優位論」と呼ばれるものです。

これは簡単にいえば、それぞれが得意な領域に集中して生産することで、全体の富が増えるというものです。

たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。

(1)比較優位のケース:それぞれに得意分野がある場合

A国とB国には、それぞれ労働者が100人います。

  1. A国では、労働者1人あたり、1年間でパンとワインを以下のように生産できます。
    • パンを5,000個
    • ワインを500本
  2. B国では、労働者1人あたり、1年間でパンとワインを以下のように生産できます。
    • パンを3,000個
    • ワインを1,000本

この場合、A国とB国でそれぞれ50人ずつがパンとワインを作ると、パンとワインの生産量は以下のようになります。

  • パン:A国で25万個 + B国で15万個 = 40万個
  • ワイン:A国で2.5万本 + B国で5万本 = 7.5万本

一方で、A国がパンの生産に特化して、B国がワインの生産に特化すると、パンとワインの生産量は以下のようになります。

  • パン:A国で50万個
  • ワイン:B国で10万本

このように、お互いが得意な領域に集中したほうが生産量の総量が増えて、みんなの生活が豊かになることが分かります。

では、パンの生産もワインの生産も、どちらもA国のほうが得意だとしたらどうでしょう?実は、その場合にも分業した方が良いというのが比較優位の考え方です。

(2)比較優位のケース:それぞれに得意分野がない場合

A国とB国には、それぞれ労働者が100人います。

  1. A国では、労働者1人あたり、1年間でパンとワインを以下のように生産できます。
    • パンを5,000個
    • ワインを1,000本
  2. B国では、労働者1人あたり、1年間でパンとワインを以下のように生産できます。
    • パンを3,000個
    • ワインを100本

今回は、パンとワインのいずれもA国の方が生産力が高いケースです。

この場合、A国とB国でそれぞれ50人ずつがパンとワインを作ると、パンとワインの生産量は以下のようになります。

  • パン:A国で25万個 + B国で15万個 = 40万個
  • ワイン:A国で5万本 + B国で0.5万本 = 5.5万本

一方で、B国がパンの生産に特化して、A国で40人がパン・60人がワインをつくると、パンとワインの生産量は以下のようになります。

  • パン:A国で10万個 + B国で30万個 = 40万個
  • ワイン:A国で6万本

パンとワインのいずれもA国の方が生産力が高かったケースでしたが、B国は、パンの場合はA国の6割の生産力、ワインの場合はA国の1割の生産力なので、パンの生産力のほうが比較的マシであることが分かります。

このとき、B国がパンの生産に特化して、A国が不足分だけパンを生産し、残りはワインを生産することで、全体の生産量を増やすことができることになります。こうして、A国とB国の労働者たちはワイン5000本分を多く楽しむことができたことになります。

このように、適切に分業をすることで生産力の総量を底上げできるので、人々の暮らしがより豊かになるというのが自由貿易の基本的な考え方です。

小国では生産性が改善する

比較優位の恩恵は、小国ほど受けやすいことになります。

アメリカや中国のように、たくさんの国民・地域を自国内に持っている大きな国家であれば、自国内でそれぞれの地域が得意分野に集中することで、十分に比較優位が働きます。

しかし、人口や経済の小さな国では、その中で十分に多様な生産力を持てないため、他の国との間で貿易をする方が、生産力を底上げできて、暮らしが豊かになります。

一部の地域・産業では市場が拡大する

他のメリットも紹介しましょう。

自由貿易を行うと、一部の産業では市場が広がります

たとえば、先ほどの例においては、B国のパン業界は、A国にもパンを輸出することで、B国内にとどまっていたときよりもパンがたくさん売れる(市場が広がった)ことになります。

A国のワイン業界も、B国にワインを輸出することで、A国内だけに向けてワインを売っていたときよりも、ワインがたくさん売れる(市場が広がった)ことになります。

発展途上国では労働者の賃金が上昇する

また、自由貿易を行うと、発展途上国では労働者の賃金が上昇するメリットがあるとされています。

比較優位論に基づくと、機械などを利用した大規模な生産は先進国が担当して、人が手作りしなければいけないようなものは発展途上国が生産した方が、全体の生産量が増えることになります。

そうすると、発展途上国では、人が手作りするものをたくさん作るために、たくさんの労働力が必要になります。その結果、発展途上国では労働者の賃金が上がりやすくなると言われています。

実際に、インドでは自由貿易開始後に、貧困率が低下しています。

自由貿易のデメリットをわかりやすく解説

一部の地域・産業が衰退する

もちろん、自由貿易にはデメリットもあります。

自由貿易が導入されると、一部の地域・産業が衰退してしまう場合があります。

たとえば、先ほどの例であれば、A国ではワインの生産力が高いので、B国よりもワインの値段を安くつくることができます。こうしたA国のワインがB国に輸入されると、もともとB国でワインをつくっていた業者は価格競争に負けて破産してしまうでしょう。

理論上では、B国がパンの生産に特化すればいいといっても、B国にもワインをつくっていた人たちがいるため、その人たちは職を失うことになります。借金をして、ぶどう畑やワイナリーに設備投資をしていれば、そのお金も無駄になってしまい、借金を抱えることになります

このように、自由貿易は理論上は全体の生産力が上がるといっても、その導入時には国内に混乱や失業がもたらされることになります。

実際に、アメリカの自動車産業は、日本車の輸入によって大きなダメージを受け、デトロイトなどの自動車産業で栄えていた街はダメージを受けました。

デトロイトの例のように、産業は地域に根差していることが多いので、その地域の産業が失われることによって、地域全体に経済マイナスの効果が働きます。たとえば、デトロイトで車工場に勤務していてリストラされた労働者は節約生活を始めるでしょう。そうすると、デトロイトの他の産業にもそのマイナスの効果が波及していくことになります。

また、このように地域と産業が一体化している場合、職を変えるということは、地理的な移動も伴うことを意味します。デトロイトで車工場に勤務していた労働者が、他の産業で働こうと思うと、その家族が代々暮らしてきたデトロイトを出なければいけない可能性が高いということです。

経済学の比較優位の理論で「A国が〇〇の生産に特化すればいい」というほど、現実は単純ではないということです。

先進国では労働者の賃金が下落する

また、ストルパー=サミュエルソン定理と呼ばれる理論では、先進国では労働者の賃金が下落する効果があるとされています。

上でも書いたように、自由貿易によって、先進国は機械などを用いた高度な産業に、発展途上国は人が手作りするような産業に特化するようになっていくとすると、発展途上国では手作りの拡大によって労働者の需要が増えたのとは対照的に、先進国では機械などによる大規模な生産の拡大によって、労働者の需要は減っていきます

もちろん、機械化の拡大によって労働者の需要が減った分、その労働者たちが新たな産業を生み出すことができれば、先進国ではさらに経済が発展して、賃金も上がっていきますが、昨日までは靴をつくっていた人が、いきなり宇宙産業を生み出すといったことは、現実的にはあまり考えられません

このように、先進国の労働者にとって、自由貿易は逆風となりやすい側面があります。

先進国・発展途上国ともに国内格差が拡大する

また、自由貿易では、先進国・発展途上国ともに国内格差が拡大しやすいとされており、実際に、中国やインドにおいても、自由貿易の解禁後に国内の格差は拡大しています。

先ほどの例であれば、A国のワイン業者やB国のパン業者は豊かになる一方で、A国のパン業者やB国のワイン業者は職を失うので貧しくなります。その結果、格差は拡大していきます。

トパロヴァという経済学者が、インドの自由貿易解禁後の各地域の経済を観察したところ、全体的に貧困率が下がるというメリットはあったものの、他国からの輸入による影響を強く受けた地域ほど、貧困率の低下具合は小さくなることが観察されました。

こうした研究からも、(当たり前のことではありますが)自由貿易の恩恵は、全ての国民に一律に波及するわけではないことが分かります。

まとめ

自由貿易とは、関税など貿易の障壁となるものを撤廃することで、自由に貿易を行おうというものです。

自由貿易は、それぞれの国が自国が比較的得意な生産活動に集中することで、人類全体の生産力を底上げする働きがあるので、長期的な視点でみると、人々の暮らしを豊かにする可能性が高いです。

一方で、自由貿易の導入時などの過渡期には、一部の産業・地域が衰退したり、国内の格差が拡大するといったデメリットが実際の歴史からも見られます。

そのため、自由貿易を解禁した際には、政府はしばらくの間、富の再分配などを通じて、自国内で自由貿易によってダメージを受けた産業・地域をケアする必要があるといえるでしょう。

自由貿易の恩恵を、富の再分配を通じて、多くの国民に届けられない場合、アメリカの労働者がトランプ政権を望んだように、国内の分断を招く可能性があります。

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