新作アルバム『KOD』と33歳になったJ.Coleが果たす責任

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J.Cole(Jコール)の新作アルバム『KOD』が発売されました。

リリース初日に最もストリーミング再生された記録でテイラー・スウィフトを破るなど、その注目度の高さが伺えます。

J.Coleは、インターネット上でミックステープを発表することで注目を集めた世代の代表格であり、JAY-Zとの契約を手にして成功したラッパーです。

「契約前からJay Zはメンターだった」。J.Coleが語るJay Zとの関係。

彼は3枚目のアルバムから、コンシャスな方向に舵を大きく切り、以降はアルバムに客演を呼ぶこともなく、メッセージ性を込めた作品をつくることに注力してきました。

彼の心の変容については、過去の記事にも触れたとおりです。

見栄から解放されたJ.Coleは、洗濯物をたたんで歌う。

そのため、現在のアメリカのヒップホップシーンにおいて、J.ColeはKendrick Lamarと並ぶ、内容のあるアーティストとして尊敬を集めています。

『KOD』は、そんなJ.Coleの5枚目のアルバムです。

アルバムタイトル「KOD」が意味するもの

J.Coleは、「KOD」が以下の3つを意味しているとツイッター伝えています。

  1. Kids on Drugs(ドラッグに溺れる子どもたち)
  2. King Overdosed(オーバードーズした王)
  3. Kill Our Demons(俺たちの中にいる悪魔を倒せ)

これらは今回のアルバムの重要なテーマになっており、それぞれがアルバムのアートワークにも反映されています。

アルバム・トレイラーの中で、J.Coleは3つのテーマについて触れています。

ドラッグに溺れる子どもたち

“もしも俺がいまテレビをつけたら、すぐに広告がポップアップで出てくるだろう。「気分が落ち込んでいるのかい?1人で思い悩んでいるのかい?」という謳い文句で、薬を押し付けてくるんだ。どんな問題に対しても、薬で解決しようとしてしまう。”

オーバードーズした王

“これは俺自身を示している。現実逃避の方法で中毒に陥って苦しんでいたとき、苦しんでいるときの俺さ。それがアルコールにせよ、スマホ中毒にせよ、女性にせよだ。”

俺たちの中にいる悪魔を倒せ

“それは最終的な目標だ。俺たちの中にある汚いものを見つめること、汚いものを誰もが抱えていることに気づくこと。俺は誰もが苦しんでいることに気づいた。昔は、俺の家族だけが、欠陥を抱えた人間だけで、めちゃくちゃだと思ってたんだ。お前が望むか望まないかに関わらず、子どもたちも何らかの方向におかしくなってしまう。なぜなら、お前自身も何らかの方向におかしくなっているからだ。だから、おかしくなる度合いをせめて少なく留めようというのが俺たちの計画だ。だけど、お前が犯す過ちで、子どもたちが目にするものがあるはずだ。「俺たちの中にいる悪魔を倒せ」というのは、それが幼少時代のトラウマとなっている経験であれ、承認欲求が満たされていないことであれ、自信の欠如や不安感であれ、その存在をつきとめようということだ。それが何であれ、俺たちは自分に正直でなければならない。鏡の中あるいは自分の心の中を見つめて、自分に問うんだ。「なあ、俺を苦しめているのは何だろう?何が俺を現実逃避に向かわせているんだろう?」。そして、もしその根っこの部分を見つけたなら、それが何であるのかを正面から見つめさせてくれ。”

33歳になったJ.Coleの果たす責任

上記のトレイラーの内容からも分かるように『KOD』では、自分を現実逃避に向かわせる悪魔との対峙がテーマになっています。

その背景には、今のアメリカの若いラッパーたちが、ドラッグ中毒になっていることがあげられます。

「ドラッグ・ユーザーの音楽」と呼ばれた、今のヒップホップが志向するライフスタイルとは。(Post Malone – “Rockstar” feat. 21 Savage)

俺は女の子とファックして、錠剤を飲み込む。まるでロックスターの気分さ。
俺の兄弟たちは大麻を手にしてる。いつだって、まるでラスタファリアンみたいに大麻を吸ってる。

昨年には、「ラップ界のカート・コバーン」と呼ばれた新鋭のLil Peepというラッパーが薬物の過剰摂取で死亡したことがニュースになりました。

彼の音楽性はローファイ・ラップ、エモ・ラップと称されており、『ニューヨーク・タイムズ』掲載の記事ではラップ・シーンのカート・コバーンと例えられ、『ピッチフォーク』では「エモの未来」と称賛されていた。

「ラップ界のカート・コバーン」リル・ピープ(Lil Peep)21歳で死去?海外複数メディアが報道

そうした中で、33歳の立派な大人となったJ.Coleは、若者が現実から逃避したくなるような社会の環境があることへの理解を示しつつも、それを克服しようというポジティブなメッセージを届けているのです。

ドラッグ中毒と現実逃避の克服を訴える

J.Coleの若者へのメッセージは「FRIENDS」や「1985」といったトラックに見ることができます。

お前はまた自分から逃げて、商品(ドラッグ)を買っている。

お前はきっとそれが心の助けになっていると言うだろう。だから俺はお前を責めるつもりはない。

だけど、俺は気持ちの落ち込みとドラッグが混ざらないことを知っている。

現実は歪んで、お前は風の中で自分を見失うことになる。

俺は気持ちの落ち込みとドラッグのコンボが人を死へと誘うのを見てきた。

お前の中に潜む悪魔は、必ずお前をいつか捕まえる。

だから、俺はお前が悪魔から逃げるよりも、立ち向かうのを見たいと思っている。

これはあまりクールなメッセージではないと分かっている。

だけど、ドラッグを使いたいほどに落ち込んでいたとしても、もっといい方法がある。瞑想することだ。

J.Cole – “FRIEND” (Ft. KiLL Edward)

ドラッグとトラップミュージックの全盛期を迎えているアメリカで、それに真正面から向き合った作品をつくったJ.Cole。

俺はただ、お前たちが今ラップしているような内容を続けたら、お前の身に何が起こるかについて話しているだけだ。

それは、お前たちをさっさと底に落としてしまうだけの話だ。

俺はお前たちに頑張ってほしいと思っているし、お前たちがその見た目ほどバカじゃないと信じているよ。

J.Cole – “1985(Intro to “The Fall Off”)”

若手ラッパーのLil Pumpなどからは、さっそく反抗的なメッセージが届いていますが、J.Coleはそういった反応も承知で伝えるべきメッセージを伝えたのだろうなと思います。

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J.ColeがLil Pumpや若いラッパーに送った「成功し続けるためのアドバイス」を読み解く。(J.Cole – “1985 (Intro to “The Fall Off”)”)

J.Coleの過去の作品について

オバマ大統領との会見を経た、J.Coleの人種差別問題に対する考えを読む。(J.Cole – “High for Hours”)

友人たちと恋人へ—スターダムにのし上がる前のJ. Coleが宛てた言葉。(J.Cole – “Hold It Down”)【前編】

友人たちと恋人へ—スターダムにのし上がる前のJ. Coleが宛てた言葉。(J.Cole – “Hold It Down”)【後編】

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