村上春樹『ノルウェイの森』を読みました。

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norweigan wood

フィリピンに旅行に行ってきたのですが、フィリピンの海で、ノルウェイの森を読むという、粋なことをしていました。

恥ずかしながら初めて村上春樹の小説を読みました。ネタバレ含みます。

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喪失の物語と、死生観

ノルウェイの森は基本的には主人公(わたなべ)の周りの人間が主人公の周りから居なくなっていく(多くが自殺)という喪失の物語です。

高校生のときの友達で生涯唯一の親友であったキズキ、キズキの元彼女で、その後関係を持ち、恋愛感情を抱いた直子、永沢さんの彼女であるハツミさん、直子が精神病から回復するのを待っているあいだに仲良くなり恋愛感情を抱くようになった小林緑という女性の父親、東京の寮で下宿生活を始めたときに相部屋になった突撃隊、さまざまな人が消えたり、居なくなったり、亡くなっていきます。

物語中でも主人公の考えとして述べられていますが、こうした喪失や死は、生の対極としてではなく、生の中に潜んでいるものとして、突然訪れ、そして生きている人間の中に波紋を広げ、やがて吸収されていく様が、ひとつひとつ描かれます。死が、残りの人間の生の中に反映されて浮かび上がるのです。

分かりやすく説明しているブログを見つけたので引用しておきます。

『ノルウェイの森』の小説の前半部に、次のような印象的な一文があります。

「生は死の対極として存在しているのではなく、その一部として存在している」

この一文は小説のなかで唯一太文字ゴシックで強調された部分であり、これがこの小説の重要なテーマ(のひとつ)であることが伺えます。この一文はキズキが自殺した場面の直後に書かれています。さてこの一文が意味しているのはどういうことか。

身近な人を亡くした経験のある人には理解してもらえると思うのですが、誰かが突然に亡くなったとき、その人が死んでいなくなったという事実をうまく受け入れられず、その人がまだ生きているような感覚にとらわれることがあります。その人はもうこの世にはいないのだけれど、自分の心の中では生きている。心の中でその人と会話したり、その人のことを思い出したり、その人が今一緒にいたら…と想像したりする。そんなとき確かにその人は僕たちにとって「生きて」いるのであり、決してこの世から完全に消滅してしまったわけではありません。つまり、そのとき「死は生の一部に含まれている」。

なぜワタナベくんとレイコさんは寝たのか? ー私的『ノルウェイの森』解釈ー

ここでは記憶の中に死が生きているという部分を解説されていますが、個人的には、それに付け加えて、残った人の生活への波紋の中にも死が浮かび上がっていると、だから、それぞれの死の後に、残った人間の生が丁寧に描かれているのだと感じられました。

また、死は生の中に含まれていて突然訪れるものとして描かれています。

しかし、キズキの死んだ夜を境にして、僕にはもうそんな風に単純に死を(そして生を)捉えることはできなくなってしまった。死は生の対極存在なんかではない。死は僕という存在の中に本来的に既に含まれているのだし、その事実はどれだけ努力しても忘れ去ることのできるものではないのだ。あの十七歳の五月の夜にキズキを捉えた死は、そのとき同時に僕を捉えてもいたからだ。

 

繋がりの物語と生

このように生の中に本来的に含まれている死によって、いつ死の世界に引き込まれるか分からない不安定な存在として人間を描いた上で、村上春樹は人間の繋がりによって生に繋ぎ留められる道を示します。

直子はポケットから手を出して僕の手を握った。「でも大丈夫よ、あなたは。あなたは何も心配することはないの。あなたは闇夜に盲滅法にこのへんを歩きまわったって、絶対に井戸には落ちないの。そしてこうしてあなたにくっついている限り、私も井戸には落ちないの。」

ここで井戸は死の世界の入口の表象ですが、直子を生の世界に繋ぎ留めているのが主人公のわたなべであることが伺えます。そして直子はわたなべに絶対的な”生”を感じています。わたなべと最初にぐうぜん再開した時に、本能的に抱かれたいと思ったのも、この生を感じ、そこに繋ぎ留められたいと願ったからということでしょう。しかし実際にはわたなべも絶対的な生ではないことが小説を読んでいくとわかります。

また、小説中では同姓との繋がりは突撃隊や永沢さんのように案外淡白に切れるものとして描かれています。キズキもわたなべの親友でしたが、直子の述懐によって、わたなべには良い面だけを見せようとしていた点が繋がりの限界として描かれています。そして直子が濡れないことによって、直子と肉体関係を持つことが出来ず、繋がりによる生を得られなかったキズキは他界してしまいます。

話を戻すと、直子はわたなべによって生と繋がれていました。そもそも直子の葛藤はわたなべと再開したことによって始まります。キズキの死によって、とても死に近づいていた直子は、わたなべとの偶然の再開のときから「好きではないけど抱かれたい」と本能的に感じます。こうしてわたなべによって生を注ぎ込まれたことで混乱し、死に近い施設で穏やかに療養するのですが、最終的にはわたなべの心が直子から離れたタイミングで自殺してしまいます。ここでは直接の因果関係はありませんが、時期的にはわたなべの心が直子から小林緑に移ってしまったときに、直子はその命を自ら断っています。わたなべ、そしてわたなべが送る手紙は生の世界に直子を繋ぎ留めていた存在でした。そしてその手紙も自殺する前に直子の手によって焼かれてしまうのです。

そして、直子の喪失によって深い悲しみに落ちたわたなべは死人のような旅を続けますが、レイコさん、そして小林緑によって生と繋がれることになります。

このように、この小説では人間の繋がりが、生を保持するための手段として提唱されています。小林緑が近所の火災に際して死んでも良いとハッタリを言ったときに、わたなべはそれに付き合って緑の部屋に残り、ベランダでキスをします。緑が少し死に近づいたとき、わたなべは緑を生につなぎとめ、そして直子の喪失で死に引き寄せられたとき、わたなべは緑によって生につなぎとめられます。

レイコさんや直子が入院している精神病患者の施設は殆ど死の世界ですが、そこでも人間の繋がりによって患者たちだけでなく、全ての人間が生に繋がれています。ここでは、精神病患者だけでなく全ての人間という点がたびたび強調されています。

また、どのような繋がりが生に近づくのかも描写されています。

まず第一に相手を助けたいと思うこと。そして自分も誰かに助けてもらわなくてはならないのだと思うこと。

つまり村上春樹は、双方的な繋がりを、生に近い理想的な繋がりとして描きます。片方が片方を助けるのだという繋がりには限界があるという考えが現れています。そして、わたなべと直子は、わたなべが一方的に直子を生に繋ぎ留めているという限界のある関係であり、わたなべと緑は双方向的な”生”の繋がりでした。

僕が直子に対して感じるのはおそろしく静かで優しくて澄んだ愛情ですが、緑に対して僕はまったく違った種類の感情を感じるのです。それは立って歩き、呼吸し、鼓動しているのです。

一方的な支えという繋がりの限界は、直子の自殺だけでなく、レイコさんの結婚生活の破綻やハツミさんの死にも見て取れます。

この小説において、唯一、双方向的な繋がりを必要とせずとも”生”きられるのは、”違うシステム”で生きている特殊な存在として描かれる永沢さんだけなのです。

 

まとめ

ということで、表裏一体的な死生観と、人間の繋がりによって保たれる”生”の物語でした。僕はあまり普段は小説を読まない人間な上に、初村上春樹だったのですが、ドハマりしそうです。

 

 

ノルウェイの森は映画化もされています。結構大々的にやってましたね。

 

題名の由来でもあり、作中でも度々出てくるビートルズの”ノルウェイの森”はこちらのアルバムに収録されています。

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