次世代の黒人コミュニティを想う、JAY-Zの願い。

浮気したことを妻のビヨンセに謝罪する曲を、朝の4時44分に書き上げられたことから名付けられたJay Zの新作アルバム『4:44』。

このアルバムには、自己嫌悪的に自分を内省する「Kill Jay Z」や、母親がレズビアンであることを明かして性的マイノリティ問題に関してもラップする「Smile」、上述の謝罪曲「4:44」など、自信満々でイケイケのボスとしてのJay Zとは異なる、センシティブな一面を見せる曲も、散りばめられています。

さて、そんな中から「The Story of O.J.」という曲の動画がドロップされています。

肌の色が明るかろうが、暗かろうが、お金があろうがなかろうが、俺たちは黒人なんだ。

TIDAL独占で公開されているJay Zのインタビュー動画の中で、Jay Zは以下のように語っているそうです。

俺たちは黒人として、(黒人の)文化と自分自身を分離したくなりがちだ。たとえばO.J.が「俺は黒人じゃない、俺はO.J.だ」って言ったみたいにね。

でも、俺は(自分が黒人であるということの)その類のコンプレックスを持ったことがない。俺は反対だった。俺はもっとシステムに対して挑戦的だったんだ。

黒人であることのコンプレックスが、いつまでも世の中から無くならないことに対する、Jay Zの疑問が感じられます。

この曲で、Jay Zは、およそラッパーらしからぬお金についての話(後に25億ほどになったビルディングを1億で買っておく機会を見送った後悔や、1億で買った絵画が8億になった話)を披露します。

なぜ、黒人問題に関するラップでJay Zは投資話をしたのか

黒人のコンプレックス問題に関するラップで、Jay Zはどうして突如として投資話を始めたのでしょうか。

よく、貧困地域に生まれた黒人が、貧困から抜け出すには、ラッパー(ミュージシャン)かバスケットボール選手になるしかないといったことが語られます。

手っ取り早くお金を稼ぐ方法は、ギャング活動などの暴力に頼ることですが、その行き着く先は「死」か「逮捕」だからこそ、そういった稼ぎ方をしている周りの同調圧力をはねのけて、自分を信じて音楽で成功しようというのが、(僕の考える)アメリカのコンシャスなヒップホップのひとつのコンセプトだと思うんですね。

そういう観点からすると、不動産がいくらだとか、絵画がいくらになったとか、そんな投資話を繰り広げるJAY Zを見て、50CENTが「(ストリートが感じられない、)まるでゴルフコースで聴く音楽みたいだ」なんて言ってしまうのも無理はないと思います。

しかし、Jay Zは、自分自身がどのようにして成り上がってきたかということは、これまでに随分とラップしてきたわけで、おそらく彼が見据えているのは、その先であり、子どもたち(次の世代)に何を残さなければいけないか、ということです。

Jay Zがしているのは、「GET RICH OR DIE TRYIN’」(金持ちになるか、挑戦して死ぬか)の後の話、「FUCK LIVIN’ RICH AND DYIN’ BROKE」(金持ちとして生きて、貧しく死ぬなんで糞食らえ)の話なのです。

FUCK LIVIN’ RICH AND DYIN’ BROKE

毎年数多くの新しいラッパーが成功していることからも分かるように、成功している黒人はたくさんいるのに、黒人全体としては貧困が再生産されている問題の解決策として、Jay Zが目をつけたのはユダヤ系の人々です。

そして、この曲では、成功した後に散財するのではなく、富を増やし、次世代に残していくことの重要性を歌っています。

ストリップクラブで散財するよりも大切なのは何か知っているか?信用だよ。

ユダヤ系の人たちがアメリカであらゆる財産を所有している理由を知っているか?これがその方法だよ。

金銭的な制約のない自由だけが俺の希望だ。豪華に生きて、貧しく死ぬなんでごめんだぜ。

俺はあるアート作品を1億円で買った。2年後、それは2億円の価値になった。数年後、それは8億円の価値になった。

この絵画作品を子どもにあげるのを待ちきれない気分だ。

上流階級気取りだって思うかもしれないけれど、俺はそれでいいよ。

でも、俺はみんなに1億円の価値があるゲームを$9.99であげようとしてるんだぜ。

(中略)

お前たちは、まだここ(ストリート)で上達してるのか。

俺たちは、本当のチャンスを掴んでるんだ。

散財せずに次世代に富を残す、Jay Zの親心

子どもを育てる中で、自分自身よりも、おそらく次の世代のこと強く意識するようになったJay Z。

自分たちがゲットーから自尊心と努力で抜け出してきたことは素晴らしいけれど、同じ経験を子どもたちにさせる必要なんて全くないではないか。頑張って成功した俺たちが、その富を散財するのではなくて、正しく投資して、次世代に残せば、黒人全体として、ユダヤ系の人たちのように、ビジネス界のメンバーになれる。

そうすれば、もう誰もO.J.のように「俺は黒人じゃない。俺はO.J.だ。」なんて、黒人であることをコンプレックスに感じているかのような発言はしなくても良くなる。

そんな未来を目指したい。

解説するのも野暮ですが、そういったJay Zの願いが込められた曲なのかなと感じたのでした。

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