ヘンな音は良い音!?HitBoyに学ぶ「魔法のトラック」の作り方。(by XenRoN)

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hit-boy

 

魔法のトラックへの入り口

Niggas in Parisの不思議な音

いきなりですが、

Jay-Z & Kanye Westによる ” Niggas In Paris ” の、センターやや下からうっすら聴こえる

 

「クシュクシュ」っというヘンな音

「ゴソッ」っというヘンな音

 

これを気にしている人は世界にどのくらい居るのでしょうか。

 

この音要るのか!?ってくらい、よっぽど注意して聴かなければ意識する事は無いはず。

散々聴いてきた曲ですが、最近やっと気付きました。

(Youtubeの音質だと分からないかも)

 

 

サンプル?ディレイ?僕の幻聴?

いや、断じて幻聴ではない。

 

いや、ディレイを普通にかけただけじゃこんなヘンな音は出せない・・・

 

” Niggas In Paris ” のトラックを制作したのはHit-BoyというUSAのプロデューサー

まさにこの曲の大ヒットで一躍注目を集めるようになりました。

 

 

Hit-Boyというプロデューサーと”魔法のトラック”

Hit-Boyの手がけた曲には、「アレ?」と思うようなヘンな音が入っている事が少なくありません。

 

一聴するとチープとも捉えられる ” Niggas In Paris ” のフレーズ。

ですが曲全体で見れば決してチープではない。

それどころかむしろ、アンティークなリッチさがありますよね。

 

” Niggas In Paris ” のどシンプルなフレーズを引き立て、

深みを出しているのは間違い無くあの「クシュクシュ」「ゴソッ」 でしょう。

 

Hit-Boyは本当に面白い音作りをするプロデューサーなんです。

よく分からないヘンな音を超さり気なく忍び込ませながら、緻密な作り込みを幾重にも重ね

シンプルな中にもリッチさのあるトラックを作り上げています。

 

一聴するとシンプルで分かり易いけれど、何故か飽きずに聴けたり、

「あ、この曲は他と何かが違う・・・」と思わせる様な曲のトラック。

それを僕は「魔法のトラック」と呼んでいます。

 

今回はHit-Boyと、もう一人、国内のスーパープロデューサーを挙げながら

「魔法のトラック」について書いていきます。

 

そして最後に、僕による簡単なHow toの紹介も楽しんで頂けたらと思います。

 

意識するかしないかのところに魔法がある

A$AP RockyのGoldie

まず、今度はHit-Boy が手がけた別の曲を挙げてみましょう。

A$AP ROCKY ” GOLDIE ”

 

 

この曲の特徴は何と言っても、あの印象的なフレーズでしょう。

誰が口ずさんでも、「あぁ、ごーるでぃーっしょ?てってってっ、てってっ♪」ってなるくらい、分かり易い。

 

が、実はこの曲にもシンプルなフレーズを引き立てる為のヘンな音を使った作り込みがなされているのです。

  • カチャカチャした、金槌?の様な、パーカッション?の様な音(これは分かり易い)
  • 耳鳴りの様なリバーブがフックのスネアに掛かっている(よ〜く聴かないとわからない)
  • フック部分で「ガサガサ」という音がRightとLeftに散らばっている(これも分かり易い)

 

他にも、

バース部分のスネアをWavesのEnigmaを掛けて捻ったような質感にしていたり、

バース最後の1小節だけアフリカンなドラムになっていたり、

拘り満載のトラックなんです。

 

中でも最も特徴的なのが、フックの部分の「ガサガサ」でしょう。これは ” Niggas In Paris ” の「クシュクシュ」「ゴソッ」より分かり易い、というか「あぁ〜そんなんあったなー!」となるくらいの存在感だと思います。

でも、「言われてみれば気付くなぁ」というくらいで、マニアでない限り気にしない音ですよね。

 

なんでこういう音を入れるのだろうか。

シンセでもないし、

パーカッションでもないし、

メロディーでもないし・・・

これ!といった名前の無い音。

てかそもそも意識する人なんて殆ど居ないでしょう?

 

要るの!?(再び)

う〜む。

 

この音、本当に要るの?

そもそも僕がそういう音を意識し始めたのは、ある雑誌の記事を読んだのがキッカケなんです。

そしてそれが「この音要るの?」疑問のヒントになっています。

 

bmr2010年10月号の

「徹底討論『いい音』ってなんだ?〜ブラックミュージックの『音』のすごさ、オモシロさ〜」

これが僕にとって衝撃的で。中でも小渕晃さんの記事がとても面白かった。というか感動しました。

 

マイケル・ジャクソンの ” Human Nature ” 。

イヤーフォン / ヘッドフォンで聴くとわかりやすいけど、Left側に小さく、歌メロを弾くおもちゃのピアノのような音が入っている。

これを気にしている方、世界中にどれくらいいるのでしょう。ほんとに、ヘンな音。

わずかに聴こえるだけだし、こんなの入れなくてもいいんじゃないか?

でも待て、これはあのマイケル & クインシー・ジョーンズが作った曲。

このヘンな音がないと ” Human Nature ” はあれほどの名曲とはならないのかも知れない・・・。

 

クインシーが手がけた曲には、アレッ?と思うような音が入っていることが少なくない。

けれどそれは、なくてはならないもので、

もしかすると「アレッ音」こそがフック(耳を惹きつけるもの)として働いているのかも知れない。

それはもう音楽の匠だけが知る真理。

見えない、触れない音楽は、なによりも理屈じゃないアートなのだと思う。

 

この記事を読んでから音楽の聴き方が変わり、

アーティストの音一つ一つへの拘りを読み解くようになりました。

僕がそれまで本当に好きだった曲を聴き直してみると、普通に聴いていては誰も意識しない様な「アレッ音」が入っていたり、緻密な作り込みがされていた事に気付きました。

 

BACH LOGICの音作り

実は国内にも、Hit-Boyやクインシーと全く同じ事をしているプロデューサーがいます。

それはBACH LOGIC氏です

 

BACH LOGIC氏の作るトラックは分かり易いキャッチーさで、作曲自体はやはりシンプル。

ただ、一個一個の音が本当に面白くて、普通に聴いていては意識しない様な「アレッ音」を必ず入れているんです。

 

SALUの1stアルバム “ IN MY SHOES ” はどの曲も結構シンプルに聴こえると思いますが、インスト盤を聴くとその細かい作り込みに驚かされます。

” IN MY SHOES ” のインスト盤をゲットできたプロデューサーは本当にラッキーだと思って下さい。

” STAND HARD ” では猫の鳴き声?の様な音が入っていたり、” THE WATCHER ON WOODS ” ではフックの部分にガサついた音が「ザザザザザ」と入っていたり、” To Come Into This World ” ではRightとLeftからほんの僅かに「プクプク、ポコポコ」とパーカッションの様なものが鳴っています。

どれもシンセや楽器を普通に弾いていても出せない、不思議な音なんです。

しかもこれらはラップや歌が乗ってしまえば聴こえない音です。

「聴こえないんじゃ意味無いじゃん」

 

あ、いや、もっと良い言い方をしましょう。

人の脳の無意識の部分に語りかける音、でしょうか。

 

ファッションと見えないオシャレ

 

ちょっと別の話題になりますが。

 

ファッションにおいて、見えない所にお洒落を!みたいな文句、どっかで聞いた事ありますよね?

あれは今回のトピックに通じるものがあります。

 

例えば、同じブラックスーツのサラリーマンでも、

  • 毎日シューズを磨いて
  • シャツはピシっとアイロンをかけて
  • ベルトのバックルや腕時計の金属類の色を合わせて
  • ネクタイはバックルの中央に剣先が重なる長さで
  • 3ミリ程度の細かい柄にも遊び心があるものをチョイスし
  • 家に帰ったらスーツにブラシをかけ・・・

こういう事をマメにしている人と、してない人では、1年後周りの女性が抱く印象は随分違ってくるものです。

「そんなんぱっと見でわかんないじゃん」

 

確かにそうですね。

 

この時女性が抱く印象の違いは結構な差があると思うのですが、

「なんとなく、こっちの人の方が清潔感あって全体的にピシっとしてる!」

くらいの曖昧な理由だったりするものです。

 

だって、ネクタイはバックルの中央に剣先が重なる長さが一番バランスが良い、とか、よっぽどファッションに興味のある女性じゃない限り知らないですよ。

 

でも、その「なんとなく」っていうのが重要で、それはまさに人の脳の無意識の部分に語りかけているんです。

 

BACH LOGICが日本にかけた魔法

– Bach Logicのビートこそが最高峰だと。

AKLO :

トラックメイキングってアイデア勝負ではないから。

みんな、「パソコン1台でどうとでもなる」というようなことを言うけど、そうじゃない。

経験も必要だし、色々な機材が必要だし、きちんと自分のスタジオを持っていて、これまで成功を収めているからこそ鳴らせる音というのが絶対的にある。

色んなヤツがビートを作っていて、なかには注目を受ける人もいるけど、やっぱりどこかチープな部分があるんですよ。

そういうことを踏まえて、”超プロフェッショナルな音”をつくれるのはBach Logicしかいないと思うんです。

もし、そういう部分をディスるんだったら、全然ディスってもらって構わない。

そこには絶対的な自信をもっているから。

– AKLO『THE PACKAGE』特別インタビュー by 微熱王子 ( @BN2OG ) より

 

ここでAKLO氏の言っている事を超乱暴に要約しますね。

「い、いやだからさ、とにかくー!ま、まじでBACH LOGICすげぇんだって!!

超プロフェッショナルだから!!そういうことだよ!もももも文句ある!?」

AKLO氏も無意識のうちにBACH LOGIC氏の音に引き込まれているのでしょう。

 

先ほど紹介した小渕晃さんの記事で取り上げている、

” Human Nature ” のヘンなピアノの音。

あれをこっそり抜いたとしても

「あ、ピアノ無いんだけど!!」

とはならないはず。

 

それはリスナーが意識して求めている音では無いですから。

 

「どの曲も素晴らしいが、これとこれは格別で、何かが違う・・・何かが・・・!」

世界中の人がクインシーを「格別だ」と言います。

そのクインシーが誰も気付かないようなヘンな音をこっそり入れている。

 

人々は知らないうちに魔法をかけられているのかもしれませんね。

 

そしてそれと同じことを、国内のあらゆるラッパーとヘッズを惹き付けるBACH LOGIC氏がやっているのだとしたら、

「ま〜たBLかよ!つまんねーな」

などと簡単に片付けられないのではないでしょうか。

 

だってしょうがないんですよ、

知らないうちに魔法をかけられちゃってるんですから。

 

先程の小渕晃さんの記事にあった、「それはもう音楽の匠だけが知る真理」。

これはAKLO氏の言う、「これまで成功を収めているからこそ鳴らせる音」なんじゃないでしょうか。

 

あらゆるジャンルのクリエイティブにおいて、多くの人々を惹き付けるモノというのは、人々が意識しない様な緻密な仕事が必ず詰め込まれているものです。

 

iOS 7では、すべての細部に厳しいデザインの基準を行き渡らせました。

タイポグラフィーはピクセル単位の緻密さで洗練させ、すべてのアイコンは新しいグリッドシステムに合わせてつくり直す。

カラーパレットも厳密に決め、これを守る。

その一つひとつは、人々が意識して求めたり、期待するものではないかもしれません。

しかしすべてが連係することで、個々の要素の間に調和が生まれ、

全体としてより優れた、そしてよりワクワクする体験をつくり出すのです。

– Apple

 

魔法のトラックの作り方

A$AP RockyのGoldieに学ぶ魔法の音作り

では最後に僕から簡単なHow toの紹介を致します。

先述したA$AP ROCKY ” GOLDIE ” の「ガサガサ」の作り方です。

 

これが100%正解の作り方では無いかもしれません。

僕が音をいじって遊んでるうちに「これいいじゃん!」ってたまたま閃いたものです。

 

まず作り方をざっくり言ってしまうと、

  • センドでリターントラックに送った音のリバーブ成分だけを書き出し、
  • それをザクザク切って、panで左右に振ってあげる。
  • 最後にアンプで質感を出し、EQで丸くする。

簡単ですよ。

 

今、僕のSoundcloudに何曲かトラックをアップしているのですが、その中の ” Chouette ” というトラックをリファレンスにしたいと思います。

 

 

この曲は基本的にシンセの1ループですが、8小節区切りで、終わりの2小節に「ガサガサ」を入れています。

 (こちらのHow To音源を聴きながら読み進めてください)

 

このガサガサの元となるのは

シンセとメインのドラムの1ループになります。

まずはこれだけ聴いてみましょう。

( ” Chouette How to ” 1番目のサウンド )

 

そしてこれを、リバーブを挿したリターントラックにセンドで送ってあげます。センドで送る度合いはMAXにしましょう。

もう一つ、注意して欲しいのですが、必ずリバーブのwetはMAXにして下さい。

 

そして次にそのリターントラックのソロをONにしましょう。
すると先程送ったシンセに掛かっているリバーブ成分(響き)だけが聴こえます。

この状態で1ループ分の長さで書き出しましょう。

( ” Chouette How to ” 2番目のサウンド )

 

書き出したWAVファイルをインサートします。※画像1

xenron1

 

そしてこれをザクザク切っていきましょう。※画像2

xenron2

ここでは8小節の内の最後の2小節分だけ使っています。

切る間隔はバラバラでも揃えても構いませんが、バラバラの方が面白い表現になるでしょう 🙂

( ” Chouette How to ” 3番目のサウンド )

 

次にこれをpanで左右に振ってあげます。

ヘッドホンで聴きながらオートメーションを書いてランダムに振りましょう。※画像3

xenron3

 

Ableton LiveにはAutoPanというエフェクトがあるのですが、その様なエフェクトを使っても構いません。

( ” Chouette How to ” 4番目のサウンド )

 

ふむ、大分近づいてきましたね。

最後にアンプとEQをかけて質感を与えます。※画像4

xenron4

まずはアンプを挿してざらつきをキメ細かくします。

これだけでも良さそうな気がしますが、アンプを掛けるとハイがかなり強くなるので、EQのLowpassで丸くしてあげます。※画像5

xenron5

 

( ” Chouette How to ” 5番目のサウンド )

 

これで出来上がり!

 

これの良いところは、曲中のフレーズから生成したリバーブ成分を使っているので、すっと馴染むところです。

ピッチがバッチリ合っているので、少々やり過ぎな加工をしてもそんなに違和感が無いです。

 

このHow toを応用すると一つのシンプルなフレーズをリッチにする事ができます。

書き出したリバーブ成分を等間隔で切って、元のフレーズと同時に鳴らすだけでも質感に厚みが出ます。

敢えて主張し過ぎなくらい前に出しても面白いですね。

 

現在Soundcloudにアップしているトラックでは、

” Jung ” の808のベースやスネアに使っていたり、

” EtherealBody ” ではシンセのフレーズから生成したものを等間隔に切って、それを左右に振っていたり、

他にも結構いろいろやっています。

 

遊んでみると楽しいですよ。

ラップに使っても面白いかも。

 

使い方はTPOに合わせて

とは言っても、これはあくまで方法論に過ぎないので、もちろん使いどころを考える必要があります。

  • ラップを乗せた時にどう聴こえるか
  • 主張し過ぎてないか

そういった事も気にしましょう。

 

「おれこんなテクニック使ってるぜ!」

と言わんばかりの主張は

「今日の靴オールデンのコードバンなんだよねぇ」

と自慢するくらいダサいので気をつけましょう。

 

最後に

楽しんで頂けましたでしょうか。

 

コラムも含め中上級者向けの話でしたが、トラックメイクをこれから始める人向けのコラムもいずれ書きたいと思っています。

その時もまた何か面白い事を書けたらと思います。

 

ではでは

THX

 

ライター情報

この記事はXenRoNさんに寄稿して頂きました。

Twitter: https://twitter.com/XenRoN

Soundcloud: https://soundcloud.com/xenron

Tubmlr: http://xenron.tumblr.com/

Blog: http://ameblo.jp/xenronthebeatz/

 

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