セカンドアルバムHall of Fameを先月発表したばかりのBig Seanですが、今回は彼のリリックについて書きたいと思います。
Big Seanの歌詞の表現で特に面白いのは「リスナーに頭を使わせるリリック」です。
1回聴いただけではよく意味がわからないけど、少し考えてみるとどういう言葉遊びなのかわかる。
与えられたヒントを使って隠されたトリックを見破る、みたいな感覚に近いかもしれません。
そういうリリックがBig Seanの曲には多いような気がします。
そのおかげで彼のラップ全体が個性的になっていますし、ヒップホップ好きのリスナーからしてみればそういったリリックを解読するプロセス自体が面白いので、リピートして聴くきっかけになる場合もあるのではないでしょうか。
では、「リスナーに頭を使わせるリリック」の例をいくつか挙げながら、具体的にどういうものなのか説明したいと思います。
Big Seanの頭を使わせるリリックとは
(例1)
Bought my fam new land, six star crib, momma feeling like she Jewish
家族のために新しい土地と6つ星の家を買った。ママはまるでユダヤ人になったみたいな気分だって。
(Fire)
6つ星、つまり超高級な家を買うだけの財力を持っているという事ですが、気になるのはその後のユダヤ人のくだりです。
なぜこのタイミングでいきなりユダヤ人が出てくるのでしょうか?
まず、ユダヤ系の人はお金持ちというステレオタイプがあるので、一番目の意味はそれです。
さらに、ユダヤを象徴するマークとしてよく使われる「ダビデの星」というものがあるのですが、それが実は六芒星です。
つまり、二重の意味で「6つ星の家」というフレーズとユダヤ人をかけてるという事になります。
(例2)
Man, I turn my enemies to molecules, little hoes
俺の敵はすべて分子にしてやるよ。つまり小さい売春婦って事だ。
(So Much More)
BigなSeanが、ヘイターを分子のように小さい存在にしてしまうというのはなんとなくニュアンスとしてわかります。
でもなぜ分子なのでしょうか?
あと小さい売春婦って一体どういうこと?
Rap Genius先生いわく、これはどうやら売春婦を意味するスラングのHoと、水のH2Oをかけてるらしいのです!
水の分子式がH2Oだから、わざわざlittle hoとかけるために分子という単語を選んだんですね。
これは….1回聴いただけで気づいた人がいたらすごいと思います。笑
(例3)
She even called my mama like you need to get your man
Cause your son lying on me, I ain’t trying to get a tan
俺のママに電話までして告げ口しやがった。「あなたの息子は嘘つきだ。べつに日焼けしたい訳じゃない」ってね。
(Almost Wrote You a Love Song feat. Suai)
この曲は恋人との破局がテーマで、Big Seanと彼女のケンカのシーンから始まります。
その流れで上記の歌詞が出てくるのですが、日焼けの部分の意味が全くわからないですよね。
Manとtanの韻のためだけのリリックなのでしょうか?
実はそうではなくて、まずこれはSon(息子)とSun(太陽)をかけています。
単語の意味は全く違いますが、発音がほぼ同じなので言葉遊びとして成立しています。
そして、嘘をつくほうのlyingと、横になるほうのlying、このふたつはスペルも発音もまったく同じですよね。
太陽の下で横になっていたら…日焼けしますね。つまりそういう事です!
リスナーに頭を使わせるリリックの書き方
こうすれば、頭を使わせるリリックが書ける!
Big Seanの歌詞を分析してみて思ったのは、「リスナーに頭を使わせるリリック」は意外と簡単に、しかも誰でも書けるんじゃないかという事です。
具体的にどうすればいいのか少し考えてみたので、興味がある方は参考にしてみてください。
まず、試しに書いたリリック、またはどうしても使いたいキーワードで連想ゲーム的なことをしてみます。
そして、その連想の過程すべてをラップするのではなく、あえて部分的に見せます。
そうすると結構それっぽくなると思います。
実際に書いてみると…
例えば、「何度失敗してもあきらめない姿勢」を強調したラップをしたいとします。
その場合こういった歌詞が思い浮かびます。
プランAもプランBも失敗
でも気にしない
少なくともあと24回挑戦するまで諦めない
ここで用いた連想ゲームの流れを説明するとこのようになります。
プランA・B
(→ アルファベット)
(→ 全26個)
→ AとBの2回分を引いたら24
この連想の流れの真ん中二つのステップをわざと省略して、いきなり24という数字を使うことによって「リスナーに頭を使わせるリリック」が生まれます。
なんで24回なんて中途半端な数字なんだろう?
何か特別な意味があるのか?
と考えさせることができるからです。
要するに、重要なのは「ヒントは与えるけど全部は説明しない」ことだと思います。
もちろん、RAqさんの前の記事にも書かれていたように、面白いリリックの書き方は他にもたくさんあると思います。
頭を使うリリックが多すぎると難解すぎて意味不明になることもあるかもしれません。
でも、バースに1個くらい忍ばせておくと何回聴いても発見があるというか、楽しく聞き込める曲になるのではないでしょうか!
ライター・プロフィール
この記事はAtsuさんに寄稿していただきました。
Soundcloud: https://soundcloud.com/atsuhiphopbeats
Twitter: @AtsuJapanovas
Blog: http://atsuox.blogspot.co.uk/
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