ここ数日、TSUTAYA等を運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の創業社長、増田宗昭さんが書かれた『知的資本論』という本を読んでいます。
さて、増田さんはCCCを何の会社だと定義していると思いますか?
本屋?レンタルビデオ屋?
いいえ、彼はCCCを企画会社と位置づけているそうです。
この本には、そんな増田さんの哲学が詰め込まれています。
その一部を紹介してみたいと思います。
これからの時代、消費者に選んでもらうために必要なのは提案力
物であれば売れた時代、プラットフォームの提供で売れた時代
これまでに日本は2つの時代を経てきました。
1つ目は物であれば売れた時代、つまり、物が不足していた時代です。
これはズバリ戦後から高度経済成長期ですね。
とりあえずコップであれば売れる。とりあえずお皿であれば売れる。ノートであれば売れる。鉛筆であれば売れる。
そんな時代を経て、日本は2つ目の時代を迎えました。
それはプラットフォームの提供で売れた時代です。コンビニエンスストア、外食チェーン店、TSUTAYA、プレーステーションとゲームソフト。
より便利なプラットフォームを提供した人が、物を売れた時代です。
そして無数のプラットフォームで飽和している現在、日本は3つ目の時代に入ったのです。
提案力で売れる時代
突然ですが、TSUTAYAではどのように書籍が並べられているか意識したことはありますか?
というのも、ここに増田氏の哲学があるのです。
ひとことで言えば、増田氏は現在の物売りを”ライフスタイルの提案”として捉えているのです。
思えば雑誌、単行本、文庫本などといった分類は、あくまで流通側からのもの。そうした流通過程の分類をそのまま売り場に持ち込んでしまうのは、顧客ニーズを顧みていないからだと思わずにはいられない。そこはただ”売り場”でしかなく、”買い場”にはなっていないのだ。主役であるべき顧客が不在の、言ってしまえば寒々しい空間だ。そうした空間を造っておいて、”本や雑誌が売れない”と嘆くのは、お門違いというものではないだろうか?
そこでCCCでは、本の形態などによる分類ではなく、その提案内容による分類で書店空間を再構築した。それが書店のイノベーションだ。いま、「代官山 蔦谷書店」に足を踏み入れてみれば、そこは旅、食・料理、人文・文学、デザイン・建築、アート、クルマ……といったジャンルごとにゾーニングされ、さらにその中でも内容の近しいものが単行本やら文庫本やらといった枠を飛び越えて横断的に固められている。だからここでは、例えば”ヨーロッパを旅するなら、こんな文化に触れてみてはどうですか?”とか、”健康を考えるなら、日々の食事をこう作ってみたらどうですか?”とかといった提案そのものを、訪れた人は受け取ることができるのだ。
(『知的資本論』より)
CCC増田氏から見たアップルストア
さらに、アップルストアについては、このように述べられています。
提案するライフスタイルに必要なものしか、そこには置かれない。例えばアップルストアを見ても、そこで売っているものは、iPhoneとiPadとMacという、せいぜい3種類程度しかないではないか。それでもいつでも混んでいる。アップルが提案するライフスタイルに、人々が惹きつけられているからだ。そして”そのライフスタイルを実現するために必要なのはコレとコレとコレですよ”と提示されているからだ。
(『知的資本論』より)
さて、ここで少し本の紹介を離れて、頭の体操をしてみたいと思います。
ライフスタイルの提案で人を惹きつけ、そのために必要なものはコレですよと提供する商売。
何か思いつきそうですね。
そう、雑誌です!
ファッション雑誌なんて、特に顕著ですよね。
こうした雑誌は、ライフスタイルを提案し、そのために必要なものを集めて紹介したり、オリジナルブランドで展開したりしているのです。
僕は雑誌というものをあまり読まない人間だったのですが、最近は雑誌に目を通したりしてるんですね。WIREDに始まり、美術手帖、UOMO、SafariのNewYorker、ダイヤモンドZAI、まぁ色々読んでみています。
そして読んでみると、とても薄っぺらく感じてしまう記事や、読んでも全然分からない記事がたくさんあります。
これらはすべてライフスタイルの提案であり、その提案を受けたい人向けの記事や広告なのです。
そう考えると、似たようなものはいくつか思い浮かびますね。
たとえば、Odd Future。
(以前のブログでODD FUTUREはディズニーに近いと書いたことがありましたが、これも一種のライフスタイルの提案だったのですね。)
こうしたライフスタイルの提案とキュレーションをリアル店舗で行っているというのが、CCCの”企画した”TSUTAYAの真の姿なのです。
以下は、CCCが進出する家電販売分野においての展望を増田さんが語った部分です。
私たちの店舗にあっても、現代の都市生活者の胸に刺さる提案を100打ち出すことができれば、イノベーションは必ず実現する。
それは家電店というよりは、すでに雑誌に近い。”もっとワクワクする生活を送ろう!”という方針のもとで、100本の魅力的な特集記事が編集されている空間。そう思ってもらったほうが早い。
(『知的資本論』)
この提案とキュレーションという「編集作業」に可能性を見出して、膨大な労力を裂く姿勢が一貫していることが伺えます。
インターネットでもリアルでも、編集作業が重要になっていく
この部分を読んでいて、似たようなことを、どこかで読んだ気がするなと思い、しばらく考えてみました。
そして、僕はそれがnanapiのグロースハックに関するまとめ記事だということに気付きました。
僕は、このまとめ記事が大好きで何回も読んだのですが、その中でも印象に残っている部分がありました。
それは以下の部分です。
いろいろな施策をやったが、例えばテーマページを作った。これは去年やった。もともとnanapiは7つしかカテゴリがなかった。大雑把にわけていたが、それを5000個に増やした。かなり階層に分かれて構造化された設計にした。それの何がいいか。ユーザーが探しやすくなる。
「恋愛」カテゴリの中に「モテる方法」という項目がある。いろんなモテる方法がある。女性だったら「男心を理解する」というのがある。お気に入り詳細を見る
そこまで細分化しているのが特徴。独自に作成したハウツーに特化した構造化がされている。「恋愛>カップル>浮気対策>浮気をされない努力をする>女性向け」など。恋愛は自分でやったけど大変だった。大変で会社辞めようかと思った。手がかりがほとんどない。ハウツーの構造化データがない。検索ワードをひたすら調べて、あとは本の目次を調査してデータに入れて、割り出した。
(nanapiが人力でやっている細かすぎるが効果的なグロースハック #on_lab)
これはひたすらユーザーの気持ちを考えて、膨大な記事を整理して見せ方にこだわった結果、SEO的にも良い結果になったという話の部分なのですが、ここがとても増田さんの話とシンクロしているなぁと思ったのですね。
これからの時代、膨大に溢れるものを、どのように編集して提案するかが物凄く大事になってくることは間違いありません。
そして、それはインターネット空間だろうと、リアルな空間だろうと変わらないのです。
リアルな空間がインターネット化するとき、世界は編集者の舞台になる
さらに言えば、これからの時代はリアルな空間がインターネットと接続しはじめます。
たとえば拡張現実。これはGoogleグラスなどのウェアラブルデバイスが実用化されるに連れて、世の中を変えていくはずです。
そして、そこで必要となるのも編集作業なのです。
ウェブ上の情報をキュレーションするだけでも、膨大な数のサービスが生まれてきました。
それが現実空間にも適用されるとき、まさに世界は編集・再構築し放題となるのです。
編集技術を身につけよう
僕は最近「編集」というものに凄く可能性を感じていたのですが、この本を読んで、編集とは何かがより見えてきた気がします。
身の回りを編集していくことは、文脈を生み出すことにも繋がります。その文脈がオリジナルなスタイルへの鍵に成り得ると僕は思っています。
スキルはある程度マネ出来てしまいます。一流の作曲家なら話は別でしょうが、ラップのスキルくらいであれば、一度耳にしてしまえば、大抵のものは日本語でも再現できてしまいます。
でも編集して作り出した文脈をコピーするのは難しいことです。
ということで、頑張って編集能力を身に付けていきたいなぁと思います。
こちらの本、素晴らしいので気になった方はぜひ読んでみてください。
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