RAPの「P」を一つ進めて「q」に。
ラップより一つ進めるというのはどういう世界で、どういうものなのか。
RAqの公式ブログを見ればその一端でも明かされていると思いきや、「RAq a.k.a.REEZYというラッパー」というタイトルのブログには、洋楽ヒップホップの歌詞やインタビューの和訳、さらにヒップホップの枠を飛び越えてビジネスやお金の記事もあり、アーティストのブログとは思えない内容になっている。
また〝ネットラップ出身〟〝東大出身〟と彼を表す言葉は踊るが、そこからRAqの実態は見えてこない。
だけど「何か大きなことをやってくれそう」── 僕たちリスナーはRAqの描く世界に強い期待を膨らませる。
今回は『Lost Tapes vol.2』を発売したばかりのRAq本人にインタビューを敢行、「RAq」の世界を少しでも感じてもらいたい。
text by OTFJ
結果としてポップな曲が残った
──Lost Tapes vol.2はとてもポップでキャッチーで聴きやすいアルバムですよね。どういったコンセプトで作ったのですか。
RAq:過去に作った曲をきちんと作り直して、ちゃんと盤として出そうと。
最初からLost Tapesは2作出したいというのは決まっていて、だいたい12曲ぐらい選んでいました。
vol.1の時にバシッとラップをした曲を入れたかったので、結果としてvol.2にはポップな曲が残ったっていう感じですね。
──新曲も入ってますよね。
RAq:はい。vol.1の時は新曲がクローズアップされなかったので、vol.2では新曲でPVを作りました。「no brand」はレーベルにビートをもらって一発で「これはやります」となった。
──驚いたのは、いつも宅録なんですよね。
RAq:そうです。今回の曲もプロデューサーの家で録ったのもありますが基本宅録です。
──ブログで1万円ぐらいのオーディオインターフェースと3000円のコンデンサマイクで録っていると書いていましたが。
RAq:今でも基本はそのままです。プロデューサーの家で録った曲が多いので、そちらは流石にもっといい機材ですけど。
──近所から苦情とか来ないですか(笑)
RAq:今のところ苦情は来ていないです、不思議と。
ボソボソとした声で録るとダサくなっちゃうので、普通に声は張って録音していて、おそらく近所には聞こえてるはずなんですが、鉄筋コンクリートだからあんまり響かないのかも(笑)
──RAqのフロウって耳に残りやすいですよね。意識していることはありますか。
RAq:フロウって回数こなしていくと洗練はされていくけど、つまらなくなっていくんですよね。
だからある程度やったら、あえて壊してまた積み上げていくというのは繰り返しやっていますね。
ラップのスキルは誰にも負けない
──そもそもヒップホップを始めたきっかけはなんですか。
RAq:もともと高校生の時からヒップホップが大好きだったんですけど、大学に入って上京したのがきっかけですね。
周囲のラッパーを見渡して、ラップのスキルには負けない自信がありました。
それに宅録で簡単にできるとわかったのも大きいですね。
──自信って大事ですよね。
RAq:今でも、ラップの上手さだったら誰にも負けないと常に思っていますね。
昔のを聴き返すと「全然そんなことないじゃん」って思う時もありますけど(笑)。
スキルは重要じゃないっていうアーティストもいるじゃないですか。それがイマイチ意味がわからない。
歌詞ももちろん大事なんですけど、ラップに関しても上手い方がいいに決まっているし、なんでそこで妥協するのかなって思ってしまう。
──最初に聴いたアーティストは誰だったんですか。
RAq:最初はキングギドラ。そのあとSEEDAをずっと聴いていて洋楽にいった感じですね。
カニエ・ウエストとかジェイ・Zとか。今は洋楽の方が多いですね。
──アメリカに住んでいたこともヒップホップを始めたことに影響しているんですか。
RAq:アメリカに住んでいたのは小学生の時なので影響は無いですね。
その時はグリーン・デイが流行っていたので聴いていました。
──カニエ・ウエストなどの英語のフロウを日本語に落として…ということもしているんですか。
RAq:昔はほとんどそうでした。
始めた頃はその作業自体が楽しかったんですよね。日本語でこの言い回しができたみたいな。
だけど、最近はどっちかというと自分で新しいものを見つけようとしていますね。
──ヒップホップを始めた動機として「これを伝えたい」という思いはあったんですか。
RAq:最初はそれよりもラップが楽しかったというのが大きかったですね。
何かを伝えたくてラップをしているというよりかは、ラップで何ができるか?ラップでどこまでいけるか?という方が個人的には興味があるので。
──「ラップでどこまでいけるか」というのは、例えばヒルクライムやライムスターのようないわゆる“成功している“ラッパーになりたいのか、それともヒップホップというツールを使って何か別のとんでもないことをやろうとしているのか…。
RAq:ツールとしてヒップホップがあって、それで何ができるか。
初めは、こんなの自分では作れないと思ってたもの ── 例えばアルバムなんかが作れるようになって、どんどんステップアップしていく。
例えば、最初に作ったフリーアルバムの『TwiRAq』は完成が予想できたんですけど、次の『The Bible』という作品は、自分でも最後まで作りきれるかわからない状態で作り始めて、試行錯誤しながら完成させることができたんですよね。
これからも、歌詞や曲の作りこみを少しずつレベルアップしていけばもっと凄いものが作れるんじゃないかと思っています。
『TwiRAq』と『The Bible』のダウンロードリンクはこちらから
Lost Tapes vol.2
従来の売れ方とは違う売れ方を
──凄いものを作りたいというのがまずは根底にあると。
RAq:そうですね。ヒップホップだけじゃなく、何か大きなものを作っていきたいという思いは強いですね。
──今は特にこれを伝えたいという明確な思いはあるんですか。
RAq:ラップに限らず、作らない側の人と作る側の人がいて、作る側の方が絶対に楽しいと思うので、その面白さが伝わるとすごいいいなと思いますね。
──世界が変化していく中で、新しい生き方とかそういったものを提示したいという思いはあるんですか。
RAq:それはありますね。でも、そういうのってもちろん曲でも提示するんですけど、自分の立ち回りだったりもっと包括的なところで見えることが大きいんじゃないかと思います。
曲だけじゃなくてブログの活動なども含めて、アーティストとして新しい何かを見せられたら嬉しいですね。
──具体的なものは見えてたりするんですか。
RAq:従来の売れ方と違う売れ方をしたいと思ってるんですよね。すごいカッコイイ人がいて、その人がメジャー契約を勝ち取ってドンッと売れました…みたいなのとは違うところで売れたいなというのはありますね。
その王道って自分が通る道ではないと思うので。
──例えば、インターネットを使ってですか。
RAq:僕自身インターネットは好きだし、ネット上で面白いと思ったことはどんどんやっていきたいと思っています。
ブログも面白そうだなと思って始めたので、もっとPV数を伸ばして大きくしたいですね。
──RAqの魅力って、CDの売り上げを伸ばすとかそういうもの以外に「何かたくらんでいるんじゃないか」というのをリスナーが期待してしまうところにあると思うんですが。
RAq:当たり前の話なんですけど、ブログが伸びれば伸びるほどアーティストの活動にもプラスになると思います。
あと今は収益にはなっていないんですけど、ブログの知名度が上がれば広告収入などCDだけでは補えない部分をブログで補えるようになればいいなと。
そうすれば、もっと色んな人に記事を書いてもらったりとか、もっとヒップホップ関係の活動にもお金を使って色々なことができるんじゃないかと考えています。
──まずはブログを伸ばしてから次の展開を考えると。
RAq:そうですね。今はまだ月に5万PVぐらいなんですけど、最近は10万PVぐらいはすぐにいけるなというのは見えてきて、これが100万PVまで伸びてくると、新しく出来ることが見えてくると思うんですよね。
何ができるかは今の時点では見えなくても、一つずつクリアする中で次が見えてくるかなと。
なう
This Jap
日本のヒップホップシーンは育っていく
──ブログに収益が出たらヒップホップに還元するということは、日本のヒップホップシーンを育てたいという思いもあるんですか。
RAq:ヒップホップだけに還元するというより、ヒップホップが好きだからカッコイイ人がいたら一緒に何かやりたいと思うし、そこできちんとお金を払えた方がお互い絶対にいい。
例えば、誰かと何かをやる時に自分が一個ブログを持っていればそこから発信もできるし、色々可能性が広がるんじゃないかなと思っています。
今、高校生も含めてラッパーの数ってすごい増えてるじゃないですか。
仲間を集めなくても一人でできますし、宅録できるようになって一番敷居が低くなったのがラップなんじゃないかな。
ラッパーの数が増えていけば、日本のヒップホップシーンというのは遅かれ早かれ育っていくと思うんですね。
そこで、その一翼を担えたら嬉しいですね。
──ブログも大事なんですね。
RAq:ラップする以外に、自分の何か(資産)を持っていたいっていうのはあります。
ブログって積み上げていけるものなので、それをヒップホップと掛け合わせてやっていきたいですね。
アーティストって注目されて売れていっても、将来が見えないというイメージがあるじゃないですか。
それは他に何も持ってないからだと思うんですよね。
活躍していた時期に、その時必要とされる役にはまっていただけで、楽曲の権利は持っているとは思うんですが、それ以外に何も持っていないから「自力が弱い」というか…。
──ブログの内容もヒップホップからビジネスまでいい意味でカオスですよね。
RAq:はい(笑)。これからもカオスのまま、伸ばしたいと思っています。
ラップの和訳ばっかりが載っているサイトとかじゃなくて、ヒップホップに限らず訳のわからないものや面白い記事がたくさん載っているようにしたい。
最近は、そういう訳がわからないものが面白いと思っていて、一見「RAq a.k.a.REEZYというラッパー」というブログのタイトルに結びつかない内容のものも、不思議とまとまっているみたいなのが面白いと思っています。
──「僕がラップを始めるときに知っておきたかった5つの事」という記事も面白いですよね。
RAq:あれは書くべきか悩んだんです。
普通ラッパーってこんなテーマ書かないじゃないですか。
だけど書いてみたら意外と反響があったり、それによってヒップホップシーンの中の“ただのアーティスト”だったのが、ちょっと違うところにいけるなという風に、ブログに載せたことで見えたというのはありますね。
わかりやすいラッパーじゃなくていい
──従来の売れ方とは違う売れ方をしたいというのは、はまるだけでは長く続かないという思いもあるからですか。
RAq:そうですね。あと、自分がはまる役があんまり無さそうだなというのもあります(笑)。
アイドル的な人間でもないし、SKY-HIさんだったらメジャーにバチッとはまって活躍できますけど、自分は違う人間なのでそこにははまらない気がする。
自分は「自分の売れ方」を考えないと生き残れないと思っています。
──ヒップホップアーティストとしての目標は?
RAq:まずすごい近いステップからいうと、Lost Tapesはvol1、vol2とも2位だったので、iTunesのヒップホップチャート1位を取りたい。
最終的には老若男女みんなが知っているようなラッパーになれたらいいですね。
「知られている」ということがモチベーションにもなるので。
──海外に出たいという思いは?
RAq:ありますね。もともとそんなに思ってなかったんですけど、KOHHさんが日本で売れた後サクッと野茂選手みたいにアメリカに行って、しかも日本語でラップしているのを見て、これからは日本人も出て行かなきゃいけないなと。
──ブログでは訳がわからない記事を出したいと言っていましたが、アーティストとしても「訳がわからない」ことをやりたい?
RAq:それはありますね。わかりやすいラッパーじゃない方がいいと思っています。
ラッパーなのかどうなのかわからないけど、本人はラッパーと名乗っている…みたいな。
そこが、今自分が目指せる方向で一番面白い。
例えば、ヒップホップとはまるで関係無い雑誌に訳がわからないコラムとか書けたら書いてみたいですしね。
最近は「ヒップホップのボーダーを超えて」とかよく言われますけど、結局ポップに寄せただけだったり、ヒップホップとアイドルを組み合わせましたとか、わかりやすすぎて面白く無いじゃないですか。
ブログじゃなくても何でもいいんですけど、自分が他のところで活動していて、その人が実はちゃんとしたラップもやっているという方が面白いんじゃないかなって。
──ヒップホップでメジャーの頂点に立ちたいとか、それともアンダーグラウンドの頂点にいたいとか、あえて目標を決めず、成り行きで自分でもどういう風に転がっていくのかを楽しんでいる感じですね。
RAq:昔はカニエ・ウエストみたいになりたいとか、ケンドリック・ラマーみたいになりたいとかあったんですけど、そもそも人間が違うし、人種も違うので、ああはなれない。
逆に言うと、“なれない”ことを受け入れると、そこから自分の道を一歩次に進められるかなと思います。
今は「どうなるかわからないのが面白い」というのがすごくあって、わかりそうになるとわからない方向にあえて戻したくなるぐらいなんですよね。
──今後の活動予定は。
RAq:ちゃんと1stアルバムを作りたいです。Lost Tapesは客演を呼ばなかったので客演とか呼んで作ってみたいですね。今年出せたら出したいなと思っています。
RAqプロフィール
大学入学後にマイクを握り始めたとは思えない圧倒的スキルが話題となり、正式作品リリース前から各種コラボ曲の発表、累計30 万枚を超えるモンスター・コンピ「IN YA MELLOW TONE」シリーズへの英語詞曲の提供など、話題を振りまいてきた若干23 歳の新星”RAq( ラック)”。
2014 年2 月にリリースされたデビュー・ミニ・アルバム「Lost Tapes vol.1」では、先行配信されたiTunes において、ヒップホップ・アルバム・チャート2 位を獲得( 日本人勢としては実質1 位を獲得! )。
Twitter: @raq_hiphop
OTFJプロフィール
2人組の映像制作ユニット
RAqの「This Jap」「強がりの唄」など多数のMVを制作している。
〝心に残る映像を〟この思いを胸に映像制作を続けている。
またアーティストのトータルサポートを目指しインタビューやイベントレポートなども手掛ける。
企業のイベントレポートやVP制作依頼も随時受け付けている。
公式HP: http://otfjmovie.flavors.me
Twitter: @OTFJMOVIE
コメントを残す