どうも、RAq(@raq_reezy)です。
今回は、2019年のグラミー賞において、楽曲「This is America」が最優秀楽曲賞をはじめ、複数の賞を受賞したチャイルディッシュ・ガンビーノ(Chidish Gambino、本名:ドナルド・グローヴァー)について、少し書きたいと思います。
なお、受賞曲である「This is America」の内容については、以下の記事で和訳および解読していますので、そちらを読んでください。
記事の目次
異分野で活躍するドナルド・グローヴァーのマルチな才能
まず、ドナルド・グローヴァーを語るうえで欠かせないのが、彼のマルチな才能です。
なぜなら、ラッパー「チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)」という顔は、ドナルド・グローヴァーの複数ある顔のひとつに過ぎないからです。
彼は、ラッパーであるだけでなく、俳優であり、コメディアンであり、脚本家であり、DJ(「mcDJ」)であり、ディレクターであり、作曲家でもあります。その多彩さゆえに、ヒップホップ業界においては「ラッパーとして、どこまで真剣なのか」という問題に苛まれてきた過去もあり、それがチャイルディッシュ・ガンビーノというアーティストのユニークさでもあると言えます。
ですから、チャイルディッシュ・ガンビーノにとって、映像ありきでの作品であった「This is America」は、まさに会心の一撃だったとも言えるでしょう。
さて、そんなドナルド・グローヴァーを深く知るために、まずは彼のキャリアを振り返ってみましょう。
脚本家としてキャリアをスタート
ドナルド・グローヴァーは、2006年にニューヨークの大学、ティッシュ・スクール・オブ・アートで、ドラマの脚本家としての単位を収めて卒業しました。
一方で、在学時からミックステープも製作しており、世に出ることはなかったものの『The Younger I Get』という作品などををつくっていました。それだけでなく、DJとしての活動も同時に開始しています。
ヒップホップにおいては、レコード会社との契約を獲得する前に自作のミックステープで名前を売るのが常なので、この頃からラッパーとしてのキャリアを意識していたことが分かります。
その後、ドナルドは「シンプソンズ(Simpsons)」の脚本を自分で書いて送るなど、営業活動をしていたことがきっかけで、デイビッド・マイナーというプロデューサーと知り合い、2006年から「30 ROCK」というコメディ・ドラマシリーズの脚本家としてキャリアをスタートします。
「30 ROCK」はテレビ業界をネタにしたもので、社会風刺やブラックユーモアも盛り込まれており、この脚本を書くことを通じて、チャイルディッシュ・ガンビーノの斜に構えた風刺スタイルにも影響を与えた可能性があります。
2009年には、サード・シーズンの脚本で、全米脚本家組合賞の「ベスト・コメディー賞」を受賞する等、脚本家として順風満帆なキャリアを積んでいきました。
脚本家以外の活動も継続
一方で、ドナルド・グローヴァーは脚本家以外の活動も継続していました。
2008年にはミックステープ『Sick Boi』をリリース。
同時にコメディアンのチームでも活動し、2009年からは「Community」というコメディドラマに俳優として出演。
この出演により、幅広い人に知られるようになります。
「チャイルディッシュ・ガンビーノ」活動の本格化
2009年頃からは、テレビ業界のチームを前提とした製作とは別に、もっと自分の裁量を働かせやすい個人的な創作活動に打ち込んでいった結果として、ラッパー「チャイルディッシュ・ガンビーノ」としての活動が本格化していきます。
2009年には2作品目のミックステープとなる『Poindexter』をリリース。
2010年には、さらに3枚のミックステープ『I Am Just a Rapper』と『I Am Just a Rapper 2』、『Culdesac』をリリース。
2011年には『EP』をリリース。そして、ついにファーストアルバムの『Camp』をリリースします。
US Billboard 200で最高11位を獲得するも、Pitchfolkで「10分の1.6」の評価を得るなど、一部で酷評されてしまいます。
当時、既に脚本家や俳優として成功しつつあったドナルド・グローヴァーのラッパー「チャイルディッシュ・ガンビーノ」という活動をどこまで真剣に捉えていいのかという問題もあったことでしょう。
しかし、ドナルドはめげることなく、翌年2012年にはミックステープ『Royalty』をリリース。
さらに2013年にはセカンドアルバムの『Because the Internet』をリリースします。
『Because the Internet』は、ドナルドが自ら書き下ろした脚本があり、それを読み進めると「ここで何曲目を聞く」という風な指示があるという構成になっており、単なる音楽作品にとどまらない作品のあり方が模索されています。
その後もチャイルディッシュ・ガンビーノは積極的にリリースを続けます。
複数の作品を経てリリースされた3枚目のアルバム『Awaken, My Love!』では、ここにきて、ラップを封印して、歌に特化。
「Redbone」がトリプル・プラチナムを記録するほどのヒットとなりました。
「Redbone」は、ドナルドに初となるグラミー賞(最優秀トラディショナル・リズム・アンド・ブルース・ヴォーカル・パフォーマンス賞)をもたらしました。
もはや「チャイルディッシュ・ガンビーノ」としての活動がどのくらい真剣なのかということを疑問視する向きはなくなったのです。
ヒロ・ムライとの共作
高い評価を得たアルバム『Awaken, My Love!』の後、ドナルドはコメディ・ドラマ『アトランタ』での主演、一部脚本・監督仕事を通じて、映像作家のヒロ・ムライと製作活動を行います。
ジョージア州のアトランタは、いまヒップホップのメインストリームでもあるトラップの中心であり最前線ともいえる街。
『アトランタ』は、そんな街で、アーンという青年(ドナルド・グローヴァー)が、お金を稼ぐために、いとこであり、ラッパーとして売れ始めているペーパーボーイのマネージャーになるというところから始まっていきます。
内容はコメディ・ドラマですが、題材がヒップホップなこともあり、若い黒人男性の仕事環境に関する問題や、人種問題など、社会的な問題を描き出しており、『アトランタ』もドナルド・グローヴァーも、数々の賞を受賞することとなりました。
「This is America」の誕生
そのドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)とヒロ・ムライのタッグが、2018年5月に突如として世に送り出したのが「This is America」だったのです。
どこかコミカルなドナルドの動きと、予想を裏切る凄惨な映像は、エンターテインメント業界向けにステレオタイプ化された黒人像と、実際の現実における黒人の生活の対比を描き出しているようでもあり、映像公開から数日のうちに1億回再生を突破。
大きく話題になりました。
次のアルバムで引退?
今回グラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞するという快挙を成し遂げたチャイルディッシュ・ガンビーノですが、次のアルバムで引退すると宣言しています。
ドナルドは、「チャイルディッシュ・ガンビーノ」活動の終了について、現在のチャイルディッシュ・ガンビーノの活動からはパンクさが失われていると感じていることを明かしています。
完全に終わりではなく、違うプロジェクトを練っているという話もあり、名義を変えて音楽活動を行う可能性もあります。
ということで、今後もドナルドのマルチな才能で、様々な作品を生み出してくれることを期待しましょう!