Logic(ロジック)は、アメリカのヒップホップシーンにおいて、実にオリジナルな立ち位置を手に入れたラッパーの1人だと言えるでしょう。
メガネを掛けてナーディーなルックスをしながらも、彼はラップをすれば、現役のアメリカのラッパーの中でも、最もスキルフルなラップを披露します。
そんなLogicが、Netflixの『RAPTURE』という番組の中で、このアルバムをつくることが使命だったと語ったのが、2017年5月に発売された『Everybody』です。
この作品は必然だった。
質の面で言えば、これ以降の作品の方が高いだろう。
だが、これは作るべくして作った。
Logicが『Everybody』に込めた想いを理解するためには、彼の生い立ちを追う必要があるでしょう。
Logicの「醜いアヒルの子」問題
Logicは長年、帰属意識の欠如に苦しんで来ました。自分が完全に受け入れられる場所がなかったのです。
それは彼が黒人の父親と白人の母親の間に生まれたハーフであること、それから、彼のルックスが関係しています。
人種差別主義者の母親
1990年にアメリカのメリーランド州のロックビルで生まれたLogic。
ロックビルは家族連れも住みやすい街として知られていますが、Logicの生まれ育った家庭の環境は過酷なものでした。
Logicがインタビューでも度々語っているのは、母親が人種差別主義者であったということです。
「白人の母親にニガーと呼ばれていた」。Logicが語る、母親の人種差別的虐待、父親のドラッグ中毒、幼少時代の生活についての周囲の誤解。
母親は人種差別主義者だったんだ。なかなか理解できないだろうけど、俺は子どものころ母親からニガーって呼ばれてた。『元気か、ニガー』とかそういう挨拶レベルの話じゃない。全く差別的な意味で言われてたんだ。
ニガーというのは、黒色人種を表すネグロイドから転じた差別用語であり、決して使ってはいけない単語です。
それが家庭内で、しかも黒人の父親と子どもを産んだ母親から聞こえてくるという事態を、Logicは全く理解できなかったと言います。
コカイン中毒の父親と売人の兄
家庭の崩壊はそれだけではありませんでした。
Logicの父親は、プリンスが大好きで、コンゴを演奏するミュージシャンでしたが、コカインの中毒に苦しんでいました。コカインの中毒がなければ音楽で成功していたはずだと、Logicは『RAPTURE』で語っています。
また、父親がただドラッグの中毒に陥っていただけではなく、なんとLogicの兄は自分の父親に対してコカインを売って商売をしていたのです。どうにかして、もっとまともにお金を稼ぐ方法はないものかと苦悩しながら。
当時の兄の視点から歌った曲がファースト・アルバムにも収録されている『Gang Related』です。
俺の小さな弟には、この環境から抜け出してほしいと思う
毎晩、俺は祈るべきことを祈る
(中略)
俺はもっと良い人生ってものを妄想する
借金がないような人生さ
真夜中にお前を銃でぶっ殺す
自分の父親にさえクラック・コカインを売るんだ
荒廃した家に育ち、自分の家の中でさえ「黒人」であることを差別されたLogicには、自分のホームだと思える家庭はありませんでした。
音楽活動に打ち込む
そんなLogicは15歳のときに初めてラップを披露する機会がありましたが、やがて本気で音楽に取り組むようになります。
彼は、18歳頃から様々な職業を転々としました。花屋、カーショップ、スーパーマーケット、パン屋、ファーストフード店などを転々としますが、カニ料理の店で働いたのを最後に仕事を辞め、ラップで成功することを目指すようになります。
Big Lenboの支え
そんなLogicを支えたのが、彼の親友であったBig Lenboです。
Big Lenboは、Logicを自分の家の地下室に住まわせ、そこでミックステープを作るのを手伝いました。
彼らには、他のバックアップ・プランは無かったといいます。
毎朝、起きたらミックステープの制作に取り掛かる日々。その甲斐もあって、ミックステープは徐々に全米で聴かれるようになっていきます。
その時期は、ちょうどDrake、J.ColeやKid Cudi、Wiz KhalifaやMac Millerなど、ミックステープから次々と新世代のスターが発掘されていた頃でした。
クリスというマネジャーと出会うことができたLogicは、名門ヒップホップ・レーベルであるDef Jamとの契約に漕ぎ付けます。
白人のルックス
しかし、Logicのラッパーとしてのキャリアも順風満帆というわけではありませんでした。
Logicが有名になりはじめると「白人のルックスを持っているから有利だ」などと悪口を叩かれるようになります。
黒人と白人のハーフであり、Logicは自分が黒人コミュニティの一員だという意識を持って、ラップに取り組んで来たにも関わらず、白人のルックスを持っていたために、ヒップホップ・コミュニティには、すんなりと受け入れられなかったのです。
家庭では「黒人だ」と差別され、ヒップホップ・コミュニティでは「白人だ」と除け者にされるという経験が、Logicを深く傷つけるとともに、彼がその後に取り組み続ける大きなテーマとなり、『Everybody』という傑作アルバムに繋がったのです。
成功と不安障害
Def Jamから『Under Pressure』でデビューし、人気ラッパーの仲間入りを果たしたLogicですが、彼はその後、不安障害に苛まれるようになります。
映画館でパニック障害を起こしたり、多くの人の前に出たくなくなったりと、公私ともに苦しい時期を支えたのが、当時の妻であるジェシカ・アンドレアでした。
妻の支え
LogicとJessicaは少し変わった出会い方をしています。
というのも、LogicがツイッターでJessicaをフォローして、Jessicaがフォローを返し、Logicがメッセージを送って関係が始まったのですが、Logicはそもそも違う人を探していたそうです。
Logicはある映画を見ていて、そこに出演しているエキストラ役の人に興味を持ち、その人をツイッターで探していました。その過程で、ジェシカが映っている写真を見て可愛いと思い、ツイッターアカウントを探してフォローしたということです。
ツイッターでのナンパのような形で始まった2人の関係ですが、無邪気な妻のジェシカは、Logicがパニック障害などを起こす中でも、Logicを支え続けたと言います。
そして、Logicは少しづつ不安障害を乗り越えていったのです。
居場所を得たLogicがたどり着いた境地
ようやく落ち着ける家庭を手に入れたLogicは、不安障害だけでなく、長い間苦しんで来た「帰属意識の欠如」の問題も乗り越えていきます。
その結果、Logicの作詞活動にも好影響がもたらされます。
白鳥になったLogic
「白人扱い」されることに苛立ち、ヒップホップシーンに受け入れられるために苦心していたLogicは、家庭という居場所と余裕を手に入れたことで、「半分は黒人だけど、白人のように見える自分」という個性さえも認められるようになるのです。その経験が、あらゆる個性を尊重するという考え方に繋がっていきます。
そうして生まれた名曲が『Black Spiderman』です。
俺は選別するために来たんじゃない
俺は悲観的なブルースを歌うためにやって来たんじゃない
俺はただ世界を良くするヒントを与えるために来たんだ
俺はニュースを広めるために来たんだ
みんな知ってるだろ、聞いてくれよ
俺は白人であることを恥ずかしくは思わない
俺は黒人であることも恥ずかしくは思わない
俺は自分の美しいメキシコ系の妻のことだって恥ずかしくは思わないぜ
お前がそのことについてごちゃごちゃと言ってるのも知っている
俺がどう振舞うべきだとか、他人が言ってきても、俺は恐れない
Logicが与える勇気
「醜いアヒルの子」問題や不安障害を乗り越えて「白鳥」になったLogic。
その姿は、現状に苦しむ多くのファンに勇気を与えました。
昨年リリースされた、自殺防止を訴える『1-800-273-8255』はYouTubeで2.5億回以上も再生されましたが、この曲に多くのリスナーが共感したのは、Logicが実際に鬱症状を乗り越えつつ、そうした問題をオープンにして、ファンと共有してきたからかもしれません。
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月額880円の「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」では、Logicの楽曲の解読も行なっています。
権力と戦え、権力と戦え!
立ち上がって「白人の権力なんて糞食らえ!」って叫ぶ権利を得るために戦え
みんな集まって立ち上がれ!この動きに乗ってくれ!
お前が何のために戦っているとしても、その想いは生き続けると約束するぜ
「ジョージ・ブッシュは黒人のことを気にかけていない」
2017年、ドナルド・トランプはブッシュの後釜さ
だから、クソ、カニエが言わないことを俺が言ってやるよ
目を覚ましやがれ、そしてみんなが望むものを与えるんだ!
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