【書評】リアルなピンプ稼業をリリカルに描いた『ピンプ』を読んでみた。

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こちらの作品、借りて読んだのですが、”ピンプ”という言葉のイメージが丸っきり変わってしまったくらいの作品だったので紹介してみます。ギャングとピンプというのは何となくごっちゃなイメージがありますが、この作品で描かれるピンプ稼業は、たとえばスヌ―プ・ドッグと聞いてイメージするようなふわふわと浮ついて華やかなものではありません。とても現実的で生生しく、冷酷で、残忍かつストイックなピンプ稼業の有様が描かれていました。

 

リアルな”ピンプ稼業”が描かれる

シカゴ南部で最大の”ピンプ(ぽん引き)”だったアイスバーグ・スリムが書いた半自叙伝

『ピンプ』は、主人公であり著者でもある”アイスバーグ・スリム”の半自叙伝的な小説になっています。

icebergslim

名前から察しが付く方もいらっしゃるかもしれませんが、この小説は社会に大きな影響を与え、その影響下で『ピンプ』に描かれているような世界を歌うラッパー達が登場しました。Ice-TやVanilla Iceなどの”Ice”は、このアイスバーグ・スリム(Iceberg Slim)の”Ice”から来ているそうです。ピンプ稼業を営んだのはシカゴ。ヒップホップですね。

 

ピンプとは?

ピンプとは、ひとことで言うと、娼婦を管理(というより支配)してお金を巻き上げるヒモのことです。娼婦が売春で稼いだお金を毎晩巻き上げて、二階建ての家を買ったり、高級車に乗ったり、スウィートルームで暮らしたりして、自分と娼婦たちで”ファミリー”を形成するわけですね。

娼婦がピンプを必要とする理由は様々です。そのピンプの持つ”縄張り”を利用するため、違法行為である売春で警察に捕まった際に保釈金を払ってもらうため、惚れた男を一流のピンプにするため等、この本に出てくるだけでも様々な理由が存在します。

この小説では、”一流のピンプになる”という間違った志だけを持って刑務所から出たばかりの1人も娼婦がいない状態から始まり、最大で7人の娼婦を持つようになるまで、そしてその生活の崩壊や逮捕、脱獄、ピンプ稼業の再興など、人生の大半を”ピンプ”として生き、やがて改心することになったアイスバーグ・スリムの人生が描かれています。(改心というよりも、ずっと内心ではピンプ稼業から抜け出す日を心待ちにしていたかのようにさえ思えます。)

 

ピンプの”支配”は寒気がするほど合理的

どうやって自分の娼婦を働かせるかという話になると、これほどリアルに描かれた作品は無いと思います。この小説では、ビジネス書のコーナーにあるような”部下のマネジメント”系の本とは比べ物にならないリアルで冷酷なピンプ稼業が描写されます。

そこには契約が無いため、娼婦はいつでも逃げていってしまいます。一方で、ピンプ側にも法律や道徳によるルールは無く、主人公が”ピンプの教科書”と呼ぶ、過去のピンプ達の経験を基にした成功法のようなものに従って、優しさから暴力までが使用されます。他の娼婦が居ると思わせることで”しゃかりきに働かせる”、二人一組にして複数の組を持つようになると、お互いに競い合って働くようになる等と、ピンプ稼業の”経営”は怖いほどに合理的です。そこにはファンタジーのような世界はなく、いかに働かせて、いかにお金を巻き上げるかという極めて冷酷な現実が存在していたことが分かります。

以下は、アイスバーグ・スリムにピンプ稼業のイロハをスウィートが教える場面です。

さぁ、ホテルに帰ってハンガーで女をしばいてやれ。それで女が逃げずに一週間仕事をすれば、五〇〇ドルにはなるだろう。そしたらその金を持って、娼婦が商売をやってる近くの町へ行け。郵便局に入るんだ。そしてホテルの自分宛てにその金を送るんだ。差出人を女の名前にしてな。

自分にライバルができたと、おまえの怠けビッチはそう考えるだろう。見てな、その女のケツにエンジンがかかるから。存在してないビッチより多く稼ごうとするだろうよ。いいか青二才、おまえはこのスウィート・ジョーンズの教えを受けたんだ。これで一流のピンプになれるはずだ。

絶対に、自分の娼婦に愛想よくしたり秘密を打ち明けたりするんじゃねえぞ。たとえ娼婦を二〇人抱えていようと、自分の頭の中が極秘事項だってことを忘れるな。優れたピンプっていうのは常に、とても孤独なものなのさ。必ず、娼婦たちにとって謎めいた、正体不明の男でい続けろ。それが娼婦を逃がさないコツだ。陳腐になるな。女たちには毎日新しい、わけのわからないようなことをいうんだ。それができている限りは、女をがっちりつかんでいられるってもんよ。

こうして教えを実践しながら一流のピンプになっていくアイスバーグ・スリムの周囲には、成功しても鬱屈とした空気がつきまとい、その成功でさえも、いつライバルピンプや警察によって崩壊するか分からない砂上の楼閣なのです。

 

リリカルな文体

『ピンプ』のもう一つの特徴はとてもリリカルな文体です。

和訳されているため、原作がどうなのかは分からないのですが、本作の後に掲載されている解説には「うねるようなドライヴ感と疾走感を併せ持つストリートの生の言葉で語られたアイスバーグ・スリムの自伝的小説『ピンプ』は、言わばアイス・Tにとってのバイブルだったのである。…(以下略)」と表現されています。

縁石のところからおれは車を急発進させた。肩を落とし、とぼとぼとホテルに入っていくキムの姿がバックミラーに映っていた。ホッグの中は最後のひとりを降ろすまで、月面にいる蚊の屁の音まで聞こえてくるんじゃないかってくらい静まり返っていた。おれは氷の塊になって女たちを試していたんだ。

これは他の娼婦たちの前で、スリムが夜に自分の部屋に来てくれないことに不満を言い、出て行ってやると言った娼婦を、出ていけるものなら出ていけと叱責したあとのシーンです。

ちなみに叱責するシーンがこちら。

「耳かっぽじってよく聞け、このごわごわ尻のビッチめ。あのな、おまえがいなきゃ困るよぉなんて娼婦、このおれ様にいたためしはねえんだよ。娼婦がおれから離れていってくれたときは嬉しくてしかたがねえってなもんだぜ。そうすりゃほかの上玉ビッチが取って代わって、その後釜に座ってスターになるチャンスに恵まれるんだからな。このへなちょこビッチめ、てめえの顔にクソをひっかけてやるから、口を大きく開けてありがたくちょうだいしやがれ。」

パトカーに乗ったポリ公が通りかかった。おれはさっと愛想笑いを浮かべた。

ひどい罵りようです。。

「おれ様」とか「あんた」みたいな訳はちょっと違和感があったのですが、とりあえず全編にわたってこのような感じの文体で構成されています。ここにも、なるほど、ラップのリリックの口調の原点のようなものが見えますね。

 

まとめ

『ピンプ』。スカッとするような成功物語でもありませんし、終始暗いし、あまり読んで気持ちが良いというような小説ではありませんが、日常生活で触れることの無い世界が描かれていて、なかなかおもしろく、一読の価値ありです。”ファンタジーとして描かれたファンタジー”ではなく、”リアルをファンタジーとして楽しめる”ヒップホップな小説でした。

 

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