イケダハヤトさんがメディア業界を志す人は必読の本として薦めていたのがきっかけで、田端信太郎さんの『MEDIA MAKERS』という本を読みました。
田端信太郎さんという方はリクルートの『R25』の創刊に始まり、ライブドアではメディア運営の責任者などを務め、それからVOGUE、GQ、WIREDなどの雑誌を担当し、現在はLINE株式会社の執行役員として同社のNAVERまとめやlivedoorブログ、livedoorニュースといったメディアのマネタイズを統括されている方です。
僕自身もメディアにはかなり興味があったため、買って読んでみたのですが、思っていたよりも数十倍面白かったので紹介してみようと思います。
テクノロジーはコンテンツに中立ではないという話
他にも勉強になって面白いメディアについての説明はたくさんあったのですが、音楽について少し触れられているところがあったので、せっかくですからここを紹介してみたいと思います。
よく音楽業界では、アナログからCD、iTunesやYoutubeとテクノロジーが変わっていっても、”良い音楽を作る”ことしかない、それがミュージシャンだという話があると思うんですね。(実際、僕も良い音楽を作ることが全てだという考えに近い方の考えを持っていました。)
メディア業界でも旧来の新聞等の業界の方々にこれからのメディアについて尋ねると、「良い記事を書くことが全てだ」とおっしゃるそうです。
ところが、実際はテクノロジーはコンテンツに中立ではないため、テクノロジーがどのようにコンテンツの消費され方を変えているかに注意を払うことが非常に重要になります。
たとえば、アナログからCDへの移行によって、曲単位で簡単に飛ばせるようになりました。1曲目をスキップして2曲目に戻るといったことがアナログだと難しかったわけですが、CDだとリモコンの操作ひとつで可能になったわけです。その結果、ポップミュージックの世界では頭にサビという構成の曲があっという間に増えたそうです。曲の頭に派手でみんなが知っているところを用意しておかないと簡単にスキップされてしまうからです。また、アルバムを通しての一貫性というものも切断されてしまいます。聞き手は好きな曲だけを好きな順番で聴くことが出来るようになったからです。これがベスト版ブームに繋がったと解説されています。
さらにいえば、現在はiTunesやYoutubeで、そもそも一曲単位で消費することが当たり前になっていると言えるでしょう。(音楽好きは今でもアルバムを通して聴くでしょうし、僕もアルバムで聴いていますが、世の中の流れとしてはということです。)
そうすると、アルバムというのはいよいよシングル曲の詰め合わせのようなものが、聞き手にとっての”(都合の)良い音楽”となってしまうのです。
一方で、こうしたことを理解していれば、たとえば1曲を長くすることで、聞き手によって切り分けられずに芸術性を高めた表現が出来るということにも気付きます。映画やオーケストラ、オペラなんかが芸術として最高峰の地位を今も保ち続けているのは、観客を物理的に長時間拘束して、観客の都合によって切り分けられることなく、提供者側(アーティスト側)の都合に付き合わせることが出来ているからだともいえます。
アルバムの1時間はリスナーによってその内の5分だけを消費されるかもしれないし、バラバラな順番で消費されるかもしれないですが、映画の2時間はぶっ通しで作り手の意図したとおりに2時間を消費させることが出来るというわけです。そうすると、アルバムを最初から通して世界観込みで味わってもらおうとすると、よりコンセプトアルバム的な、それこそTYLER THE CREATORの『WOLF』やKENDRICK LAMARの『Good kid M.a.a.D City』のような、小説や映画レベルの構成(聞き手の都合でつまみ食い・順番の並び替えが出来ない構成)が求められるわけです。
このようにテクノロジーがコンテンツの消費のされ方にどのような影響を及ぼしているかを知ることが、コンテンツを作るうえで大切だということで勉強になりました。
メディアに興味がある人はぜひ
他にもメディアのコンテンツのコントロール力が責任+権威を生むであるとか、フロー型とストック型のコンテンツであるとか、紙媒体からウェブへの移行によってユーザーはどんどん自分の都合に合わせてコンテンツを消費できるようになっており、その結果どのようにメディアが変化してきているかであったり、様々なことが非常に分かりやすく解説されています。
また、PV単価いくらという砂漠のような状態になりつつあるウェブメディア業界への問題意識が強く、ブランド論やいかにしてPV単価の高いメディアに育てるかといった視点が非常に勉強になります。
ということで、本書ですが”メディア”についての標準教科書といっても過言ではないと思いました。
今年読んだビジネス系の書籍の中では飛びぬけて良かったので、メディアに興味がある方はぜひ読んでみてください!
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