朝井リョウ『何者』を読んだら、瑞月さんがクリエイターの卵殺しすぎた!

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asakura

 

瑞月さんがクリエイターの卵殺しすぎる

桐嶋が部活を止めたことで(?)、一躍有名になった朝井リョウ氏の『何者』は、就職活動を行う5人の学生を描いた小説です。

その中で、「瑞月さん」という大人な女の子が爆発する場面があります。

 

アート系の仕事をしたくて、自己実現を目指す、意識の高い「隆良」が、「ギンジ」とのコラボ予定がなくなったことを報告する場面です。

ギンジは、劇で食べていくことを目指して、大学を辞め、劇団を設立し、月1で公演をしている若者です。

 

隆良は言います。

「……俺は絶対にもっと考えた方がいいと思った。だって正直、公演の内容もそこまで面白いものになってなかったし。もっと考えて煮詰めて、最高のものをお客さんに提供するべきだって俺は思うんだよね。」

 

隆良は、ギンジの劇団とコラボして、展示会を開催する計画を練っていたのですが、コラボは実現せず。

その原因は、しっかりとプランを練って、準備をする時間を取ることを断り、公演が月1であることに拘ったギンジにあるというわけです。

 

隆良は、会社で働くことも同じようなものだとして、会社に入る意味の無さを訴えます。

「そうやって考えたら、会社に入るのとかってホント、俺には向いてないんだなって思うわ」

就活なんてしなくて正解、と、言うと、隆良は後ろの壁にもたれた。

 

ここで、普段は大人な対応をしている瑞月さんが反応します。

「どうしてそう思うの?」

ひゅんっとボールでも投げるみたいにどこからか声が飛んできた。

瑞月さんが、隆良のことをまっすぐ見つめている。

「だって会社って、考え方が合うわけでもない人たちと同じ方を向いて仕事をしなくちゃいけないんだろ?」

煙草が欲しくてたまらないのだろう、隆良はひとさし指でテーブルの上をとんとん叩いている。

「その方向っていうのも、会社が決めた大きな大きな目標なわけで。納得せずに、自分を殺して、毎日毎日朝から晩まで働くって、そんなの何の意味があるんだよって俺は思う。自己実現が人間にとって一番大切だって、どこかの哲学者も言ってただろ。」

 

空気が一気にピリっとします。同時に僕もピリっとします!

やばい!殺られる!

 

隆良くんのその考え方は、たくさんたくさん考え抜いたうえで生まれたものなんだよね?

瑞月さんだ。

「そうだったら、いい。だけどもし、そうじゃないんだったら聞いてほしい。」

 

ここから、ずっと瑞月さんのターンが始まります!

 

「最近わかったんだ。人生が線路のようなものだとしたら、自分と全く同じ高さで、同じ角度で、その線路を見つめてくれる人はもういないんだって。」

 

人生が線路?同じ高さ?同じ角度?見つめてくれる人?

 

「今までは一緒に暮らす家族がいて、同じ学校に進む友達がいて、学校には先生がいて。常に、自分以外に、自分の人生を一緒に考えてくれる人がいた。学校を卒業するって言っても、家族や先生がその先の進路を一緒に考えてくれた。いつだって、自分と全く同じ高さ、角度で、この先の人生の線路を見てくれる人がいたよね。

 

いました!

 

「だからこれまでは、結果よりも過程が大事とか、そういうことを言われてきたんだと思う。それは、ずっと自分の線路を見てくれてる人がすぐそばにいたから。そりゃあ大人は、結果は残念だったけど過程がよかったからそれでいいんだよって、子どもに対しては言ってあげたくなるよね。ずっとその過程を一緒に見てきたんだから。だけど」

瑞月さんは言った。

「もうね、そう言ってくれる人はいないんだよ。」

 

瑞月さんは自己実現を夢見る隆良、ひいては世界中のクリエイターの卵に、容赦なく切り付けます。

 

「私たちはもう、そういう場所まで来た」

電車の中で聞いた瑞月さんの声が、現実のそれと交差する。

「ギンジくんとの企画の話がなくなった、っていうさっきの言い方ひとつとってもそう。まるで自分とは全く関係のないところで話が消え失せたみたいな言い方したよね。何それ、そんなの、地球温暖化で南極の氷がなくなった、っていうニュースと同じじゃない。自分は何もしてないけど、何かの現象がきっかけでなくなった、って、そう言いたいの?したこともないくせに、自分に会社勤めは合ってない、なんて、自分を何だと思ってるの?会社勤めをしている世の中の人々全員よりも、自分のほうが感覚が鋭くて、繊細で、感受性が豊かで、こんな現代では生きていき辛いなんて、どうせそんなふうに思ってるんでしょ?

隆良はその場から動かない。

 

やめて!

もう隆良は立てません!なんか僕も含め、おそらくたくさんの人がダメージを受けてます!

心臓に悪いので、傷ついた人はここまでにしておいてください!

 

「そんな言い方ひとつで自分を守ったって、そんなあなたのことをあなたと同じように見てる人なんてもういないんだよ。あなたが歩んでいる過程なんて誰も理解してくれないし、重んじてない。誰も追ってないんだよ、もう

瑞月さんの言葉から滲みで出る説得力が、この部屋にいる全員を、がんじがらめにしている。

「バイトのことを『仕事』って言ってみたり、あなたの努力が足りなくて実現しなかった企画を『なくなった』って言ってみたり、本当はなりたくてなりたくて仕方がないはずなのに『周りからアーティストや編集者に向いているって言われてる』とか言ってみたり、そんな小さなひとつひとつの言い方で自分のプライドを守り続けてたって、そんな姿、誰も知らないの。誰も追ってくれていないの。

誰も、と、言葉の輪郭をもう一度なぞるように、瑞月さんは繰り返した。

 

隆良は完全に死体です!なんか僕も傷ついてます!

でも瑞月さんは死体にさらに釘を打ち込みます!

 

「隆良くんは、ずーっと、自分がいまやっていることの過程を、みんなに知ってもらおうとしてるよね。そういうことをいつも言ってる。誰かと知り合った、誰かの話を聞いた、こういうことを企画している、いまこういう本を読んでる、こういうことを考察してる、周りは自分にこういうことを期待してる」

瑞月さんは息を吸う。

十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって

 

ぎゃー!!

 

瑞月さんはそこまで言うと、我に返ったように口を閉じた。

 

はっ!私、隆良くんを殺しちゃった!!

もう遅い!

 

というわけで

何だか、この本を読むと、自分のかっこ悪いところが炙り出されます(笑)。

この後、さらに怖いところもあるんですね。一番ラストの部分。

朝井リョウ氏は、若者の気持ちをすごく分かってて、痛いところをグサグサと刺してきます。

 

CDを出したり、少しでも社会の中で活動出来てるのは”救い”なことだなと改めて実感しました!

皆様ありがとうございます!これからも、ひとつ、どうぞよろしくお願いいたします!

 

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