なぜ英国Complexは日本語ラップを紹介したか?

公開日: ヒップホップ , ,

campanela

※この記事は浮浪人さんに提供していただきました。

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先日、日本語ラップ(以下J-Rap)リスナーのTLを賑わせた話題は記憶に新しいと思う、

英国(UK)のComplexがJ-Rapから厳選した25組を記事内で紹介した(内容はこちら)のだ。
一見して「どうせ日本語分からないんだから音だけ聴いてるんだろう」と脊髄反射ぎみにボヤいてみたりするが、読んでみるとリリックや立場、MC達の狙いなどにも言及されている。

しかしなぜComplex、それもUKがJ-Rapに着目したか?

…実はUK Hiphopシーン、日本以上にHiphopにものすごーく苦労してきた国なのだ。

そこで、偶然にもUK Hiphopを(にわか程度に)聴きかじっていた著者が、2国のHiphopシーンを比較しながら、その歴史をなぞっていこうと思う。
(上記のとおりニワカなので、記事の正確性については完全には保証できないが)

願わくばこの記事を読み終えたとき、逆にUKシーンからJ-Rap進化のヒントが見つかれば幸いである。

 

1. 90年代UK―Real Hiphopとトリップホップ

90年代というと日本ではハードコア全盛期で、まさに黒船よろしくなキングギドラやブッダブランドを筆頭に、倒置法の押韻が確立された時代である。
同時期のUKもさほど変わりなく、USへの憧れ実直のラップが普及していたのだがここで問題が2つあった。 英語であることとゲットーがないことだ。

英語なんだから韻踏み放題じゃーんなんて日本語ラッパーは思うだろう。
しかし実際はというと、同じ言語かつ違う国であることで、USとの差別化を意識せざるを得なくなってしまったのだ。

本来であればイギリスにはBritishという独自の発音があるのだが、原点であるUSへのヒップホップマナーを大事にしたMC達が発音(ノリ)まで真似てしまったという背景がある。
同じ理由で”ありもしないゲットー”をラップした結果、一般人には聴かれないという結末に至る。

その同時期に台頭してきたのがPortisheadを代表とする”トリップホップ”だと思う。

かすれたサンプルにHiphopのノリをほのかに感じさせるスローなドラム、しかし乗るのはラップでなく病みまくった女性ボーカル…
なんていう唯一無二のサウンドで本国USでも瞬く間に大人気に。
後述するDizzee Rascalなんかもそうだが、UKだろうと”唯一無二”なら本国でも通用するというのを証明した先陣だった。
当時94年。同じアングラサウンドのRZAがWuの1stを出した僅か1年後だ。

こんな具合に、日本が脚韻できるようになったことに大喜びしている間、UKは早くも本場Hiphop畑との区別に頭を悩ませていたのだ。

 

2. 00年代(前半)UK―発音を取り戻す、アングラ!

00年代といえばTHA BLUE HERB、Shing02、降神からGAGLE、MSCなどなどを中心としたアングラ勢力がノリにノっていた時代だ。
フォロワーも増える増える…ということはさておき、日本の独自性について真剣に模索しはじめた時期でもある。
まだ90’の脚韻の手法が有効に使われていた頃だろうか?

さてその頃のUKでは、自国レペゼンの有志たちが盤を切って本格的にUK色を前面に出してきていた。
この辺りの流れは日本と変わらず、個性的MCがわんさか登場する。
そんで一部を紹介していくが、まず代表として必ず挙げられるのがJEHST。

04年発表(当時24歳!)の『Falling Down』収録曲なのだが、このアルバム、曲次第では上ネタすら無いような”ミニマル”のオンパレードで、相当に聴きづらい。
しかしロンドンや地方のローカルな社会問題に、巧みなライミングを通して切り込んでいくスタイルは、その独自な音構成と相まって爆発的なヒットを飛ばしたとか…
イギリスでも北のほうの訛りを前面にして、UKラップの躍進に一役買っている。

Skinnymanはその名の通り薬中顔負けのガリガリっぷりで知られる…いわゆるレジェンド。
この作品以降には目立った活躍はしていないのだが、この1作のUK具合が一部に信仰される要因に。
というかこの曲に限ってフローのうねりがとんでもない。まさに一発屋。

その声質からUKでもっともSickなラッパーと評されるVerb Tと獣のように不気味で太い声のKashmere、Jehstの盟友ことAsaviourの3人によるコラボ曲。
ちなみにこのビートを作っている”Ghost”の曲群をYoutube辺りでググると当時のUKのMC陣がだいたい知れるのでオススメ。

 

3. 00年代(後半)UK―グライムシーンがやってきた

BPM135 – 150程度の早めのトラックに、極端にオクターブを下げた無機質なシンセベース、早回しのラップ、ドラム・パーカッション的な機能としてのハンドクラップ(拍手)などが特徴としてあげられる ―wikipediaより

00年代後半の日本語ラップといえばmichitaを中心としたJazzy Hiphopの興隆やMeisoのようなアングラムーブメントの集大成が出てきた時代だと思う。
UMBなどのMCバトルが盛んになりはじめたときでもあったかな?

一方UKでは…ヒップホップというかグライムシーンが注目されていた!
アングラの活性はあるものの、輝いた個性を貪欲に求めるイギリスの姿勢は変わらず、03年のWileyやDizzee Rascalあたりを皮切りにグライムというジャンルが始まる。

グライムがウケた最大の理由は”USへのカウンターとしてのHIPHOP”だという点だ。
まさに”同じ言語の違う国”であればこそ成し得れた技なのだと感じる。
良い比較例がROAD RAP(だっけ?)や日本でいうODBだ。あれらの音楽の決定的に違う所は、競争相手が”同じ言語の同じ国”だという所に集約される。
比較対象が同じことをしていたんでは結局「ただ早いってだけの制限」にしかならない訳で、シーンとして切り離された、しかし共通言語(英語のことでもあり、ラップ的方法論のことでもある)のある場所と対立したことで初めて輝きを増したジャンルなのだ。
言ってしまえば虎の威を借る狐かもしれない…(失礼)

 

4. 10年代のUK―硬派なヒップホップの再帰

さて10年代の日本語ラップ、簡単な単語にまとめるとするなら
「巻き舌SWAG!ポエトリー女子!適当にいけよ!」
という感じだろうか。うーん大体合ってるだいたいあってる。
90年代の押韻はどこへやら、むしろ90年代のスタイルを「押韻至上主義」と読んでいたりする。
その代わりといえばアレだが、更に自由に”日本独自をやろう!”という意欲が楽曲に溢れ出しているのが現在のシーンだ。
そのガラパゴスな独自性もあいまって冒頭のComplexに紹介された、というわけ。

ではそのUKでは現在どんなHIPHOPが作られているかというと、グライムシーンは安定期に入り、インディのMC達がまた名乗りを上げているのだ。
その代表的なレーベルがHigh Focus Recordsになる。
一番人気はDirty Dikeと呼ばれる人物だ。

…聴いた?聴きました?このいい加減にしろっていう押韻のしつこさ…?
Kool G Rapより音節の束で叩きのめすスタイルのこのラップはUKのインディーにも関わらず100万再生を突破して絶賛爆発中。
この曲はやり過ぎなのだが、この押韻の多層化、単純化こそが10年代アングラUKシーンの醍醐味となっている。

Split ProphetsはUKでも大きな大所帯クルーだ。 このPVでのUpfront MC,Hi Res,Datkidの他大勢のMCが所属している(正確に把握していない) 客演のMystroは00年代から活躍しているMCで、 最近はRapperTagUKやUK Rap Upなどの企画で知られる。

10分の超絶マイクリレー。みんな踏み方が統一されている。
おそらくだけど、ライム同士の言葉選びの面白さを際立たせるためにこのスタイルが流行り始めたんじゃないかなと思う。それに何というか、ブリティッシュのすっきりした発音のおかげでしつこさがUSに比べ無いのが大きいのかもしれない。

と思えばこういったオールドスクール的なノリの曲もあったり。
ちなみにこのMouse Outfitは『Wordplay』というUK Hiphop専門マガジンに2012 Best Newcomerとして選ばれたそう。超Jazzy!

これは上記曲の完成祝いに作ったサイファーだが、動きやコンビネーションが面白い。日本で流行らないかな

00年代に活躍していたMC達が復活しているのも好印象だ。日本のソレとは違い、セルフプロデュースのトラックの上で/ さらに強力なサウンドを作り上げている。どれも”古参”の枠に収まらないフレッシュな音組みだ。

挙げ句の果てにこんなスキルの化け物まで出てくる始末。UKオソロシイ。
Dirty Dikeをそのまま三連符解釈したような壊れっぷりだが、これでも意味が通ってるというから頭を抱えたくなってくる。

 

5. まとめ

日本だけだと思われているかもしれないが、意外にも大国イギリスの音楽も同じ悩みに頭を抱えていたりするのだ。
そしてここまでの歴史を振り返ってみて気付いた人もいるかもしれないが、日本の「巻き舌ウゼー」的な流れはUKでは90年代で既に起きていたし、UKは日本的なユニークさを求めるくせにフォーマットに忠実ということだ。
…互いに学べることはあるんじゃないだろうか?

“なぜ英国Complexは日本語ラップを紹介したか?”
それは自国の”質実剛健で殻を破れない”状態に、まさに”コンプレックス”を感じてヒントを与えたくなったからじゃないだろうか?

– – – – –
そんな様子を察して、逆に今回イギリスの事情を紹介したら面白いんじゃないか?と思いこの記事を書いてみました。
楽しんで頂けたでしょうか?参考になるものがあれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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