記事の目次
はじめに
ヒップホップのサンプリングについて詳しく知りたい方へ。
この記事では、以下のような内容を説明しています。
この記事の内容
- サンプリングってなに?
- サンプリングの元ネタを調べる方法
- サンプリングって著作権違反なの?
- リリックのサンプリングって?
- サンプリングのやり方は?
ぜひ、最後までお読みください。
*それ以外について知りたい方は「ヒップホップの教科書」からお探しください。
written by @raq_reezy
ヒップホップのサンプリングとは?

サンプリングの概要
ヒップホップのサンプリングとは、既存の曲の一部分を他の曲に用いる行為です。
Wikipediaでは、以下のように説明されています。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。あくまで曲の一部分を引用するだけなので、基本的な歌詞やメロディーラインをそのままなぞるカバーやアレンジとは別物である。
少し難しいですが、こんなふうに考えてみてください。
例えば、既存の曲からドラムだけが流れている部分とピアノだけが流れている部分をそれぞれ切り取ってきて、組み合わせてループさせると、ドラムの上にピアノが流れているビートができますよね。
このような方法でビートを作ることをサンプリングといいます。
サンプリングの起源はブレイクビーツ
ヒップホップでは、多くのビートがサンプリングによって作られています。
その理由は、ヒップホップの起源として「ブレイクビーツ」があるからです。
ブレイクビーツとは、2枚のターンテーブルで曲の間奏部分(ブレイク)だけを再生し続けることで、永遠にブレイクを流し続けるテクニックで、ヒップホップの始祖であるDJのクールハークが発明しました。
このブレイクビーツの上で踊るようになったのがブレイクダンスであり、このブレイクビーツの上でMCがパーティーを盛り上げるために喋ったのがラップとなりました。
つまり、既存の曲の一部を切り取ってループさせるという行為は、ヒップホップが誕生したそのときから、ヒップホップの根幹を担っていたのです。
このブレイクビーツを専用の機材(現在ではPC)を用いて製作する行為がサンプリングの始まりだといえるでしょう。
ヒップホップのサンプリングの元ネタの調べ方
ヒップホップはサンプリングでつくられているビートが多いということは、その元ネタが何かということを探ってみるのも楽しみのひとつです。
サンプリングの元ネタとは
サンプリングの元ネタとは、サンプリングによって切り取られた原曲ということです。
分かりやすい例をひとつあげてみます。
以下は、カニエ・ウェストというラッパーでありプロデューサーでもあるヒップホップ・アーティストがつくった「Through the Wire(スルー・ザ・ワイヤー)」という曲です。
こちらの曲は、働きすぎで睡眠不足だったカニエ・ウェストが運転中に衝突事故を起こして死にかけたときに製作された曲です。手術治療で口の中にワイヤーが張り巡らされている状態でレコーディングをしたので、「Through the Wire(ワイヤーを超えて)」というタイトルになっているわけですね。
しかし、それだけではありません。「Through the Wire」の元ネタは、チャカ・カーンの「Through the Fire」という曲です。
実際に聴いてみていただくと、ピッチ(音程の高さ)こそいじられているものの、「Through the Fire」のサビなどが切り取られて、ビートに用いられていることに気づくと思います。
サンプリングの元ネタを調べる方法
サンプリングで作られた曲の元ネタを調べるには「WhoSampled」を利用します。
ウェブサイトを開いたら、右上の検索ボックスに元ネタを知りたい曲を入力して、検索しましょう。

「Who Sampled」のトップページで右上の検索ボックスに入力
曲のページを開くと、その曲のYouTube動画の下に「Contains Samples of ● Songs」と書かれた部分があります。ここに記載されている曲が元ネタです。

サンプリングの元ネタを確認
Jay-Zの「Empire State Of Mind」であれば、The Momentsの「Love on a Two Way Street」とFrank Sinatraの「Theme From New York, New York」が元ネタであることが分かります。
ぜひ、自分の好きな曲の元ネタも探してみてください。
ヒップホップのサンプリングと著作権・パクリ
ヒップホップのサンプリングは、既存の曲の一部を用いるため、権利処理が適切にされていないと著作権侵害となる場合があります。
しかし、どのラインのサンプリングからが著作権の侵害となるかについては、裁判の判例も混迷を極めており、定義が難しいのが現状です。
なお、個人が楽しんでサンプリングで曲をつくって遊ぶ分には、全く問題ありません。
著作権の種類
著作権とひとことで言っても、サンプリングに関して問題となりうる著作権は2種類あります。オリジナル楽曲(譜面)の著作権と、サウンドレコーディングの著作権です。
サンプリングは、既存の曲の一部を切り抜いて使用するため、その曲自体の著作権と、その曲の演奏に関する著作権の両方に抵触する可能性があるということです。
まだ日本では判例がない
日本においては、サンプリングに関する著作権の争いで裁判にまで至ったケースはありません。
アメリカでは著作権侵害が認められたケースもある(ビズ・マーキー事件)
アメリカでは、サンプリングによる著作権侵害が認められたケースもあります。
たとえば、ラッパーのビズ・マーキーは「Alone Again」という曲をリリースしていましたが、この曲はギルバート・オサリバンの「Alone Again(Naturally)」から8小節をサンプリングしてループさせたビートの上にラップを乗せたものでした。この訴訟では、ビズ・マーキーは敗訴しています。
しかし、著作権侵害が認められなかったケースもあります。たとえば、元ネタからサンプリングした部分が特段オリジナリティのないありふれたフレーズであるとして、オリジナル楽曲(譜面)の著作権侵害が認められなかった、Tuff ‘N’ Rumble Managementによる訴訟などがあります。
著作権侵害を立証するには実質的類似性を示すことが要求されるが、これは本件の原告の主張にも当てはまる。実質的類似性を判断するためのテストは、平均的な観察者から見て、問題となっている部分が原告作品から盗用されたものとして認識するかというものである。
米国での判例については、以下の記事をご覧ください。
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サンプリングのやり方
現在は、パソコンのDAWソフトにサンプリング機能がついているため、そちらを使うのがおすすめです。
MACユーザーの方は、比較的安価な本格派DAWソフトLogic Pro Xでサンプリングすることができます。参考動画を貼っておきます。
リリック(歌詞)にもサンプリングがある?
ここまではサウンドのサンプリングについて書いてきましたが、リリック(歌詞)においてもサンプリングという概念があります。
たとえば、有名な曲の歌詞の一部や映画のセリフなどを、ラッパーが自分の歌詞の中に引用するというものです。
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