ウクライナ情勢について、だいたい把握出来たので、まとめました。
内乱直前のウクライナ情勢の背景
西側と東側
ウクライナは西側と東側で大きく政治傾向が異なります。
まず、ウクライナの西側は、民族的にはウクライナ人が多数派であり、ロシアに対しては良い印象を持っていません。その理由はソビエト連邦時代に遡ります。
当時ソ連は当然自由な経済活動は許されておらず、計画経済といって、国家の計画通りに国内の産業がコントロールされていました。5ヵ年計画の下でソ連の主な輸出品は小麦であり、小麦を輸出することで機械類を輸入して産業の機械化を目指していました。その輸出用小麦の生産地とされたウクライナ西部では、次の年の種もみ用の小麦まで国家に徴発され、5人に1人が餓死する大飢饉が発生しました。他の家の子どもを誘拐して食べて生き延びるといった悲惨な現実があったのです。
そうした過去を持つウクライナ西部は反ロシアであり、また第二次世界大戦中にはポーランドの占領下にあったこともあってヨーロッパの一員という意識が強いため、親欧米に近い政治傾向を持っています。今回、欧米側のメディアで「市民」「反政府市民」「デモ隊」と報道されているのは、この西側市民です。ロシアや中国のメディアでは「テロ組織」と報道されています。
一方で、経済的に発展しているのはウクライナの東側です。現在ロシア軍が展開しているクリミア等も、この東側にあたります。ウクライナ東部には豊富な天然資源もあり、また住民はロシア系が多数を占めています。これはウクライナの農民がソ連の絶滅政策のもとで絶えてしまい、ロシア人が移住してきたためです。ですから、東部はロシア人が多く、親ロシアの政治傾向があります。今回、欧米側のメディアで「クリミアの武装勢力」等と報道されているのは、この親ロシア側市民の自警団等です。
怪しい選挙
このように東西で異なる政治傾向のもと、長い間、政治的な闘争が繰り広げられてきました。
2004年には、親ロシア側のヤヌコーヴィチ候補が、親欧州側のユシチェンコ候補を破ったものの、不正選挙だとして大規模なデモが巻き起こり、再選挙の結果、ユシチェンコが大統領に就任したという、オレンジ革命を経験しています。
この西側政権がガス政策などで失敗したこともあり、次の大統領選挙では西側のユーリア・ティモシェンコ候補を破って、東側のヤヌコーヴィチが当選し、このヤヌコーヴィチ大統領が現在ウクライナ東部に逃亡している大統領ということになります。
ヤヌコーヴィチ大統領は、オレンジ革命の際にもユシチェンコをサポートした政敵の女性政治家ユーリヤ・ティモシェンコを逮捕したりと、政治闘争は耐えませんでした。(逮捕されていたユーリヤ・ティモシェンコ自身も、違法コピーした映画等のチェーン店展開で大儲けした後に、エネルギー事業を独占経営して大富豪となり、ロシアから贈賄で指名手配されていたり、殺人容疑があったりと、かなりグレーな政治家です)。
ロシアからのガスの供給とウクライナの未払い
ロシアがウクライナに影響力を持っている理由は、ロシアが旧ソ連国家に対して国際標準価格よりも圧倒的に安い値段でガスを提供していることが挙げられます。
たとえば、2004年のオレンジ革命後に誕生した親欧州政権は、ヨーロッパ向けに市場を開放しようとしましたが、ロシアからガスの値段を国際標準価格にするという圧力を受け、欧州側の干渉もあり国際標準価格と従来の特権価格の間くらいで落ち着いたのですが、いずれにせよガスの値上がり等によってウクライナの財政は悪化の一途を辿り、次の大統領選挙では親ロシアのヤヌコーヴィチ大統領が当選しました。
また、ロシアがウクライナへの影響力を手放したくない理由としては、ウクライナがこうしたガスの供給に対する支払いを出来ていない点があげられます。ロシア管轄下でウクライナの財政を何とかしなければ、ウクライナは破綻してしまい、ロシアは膨大な借金を回収することができなくなってしまうのです。
一方で、欧米はロシアと比較すると貸している金額は少ないため、ウクライナの財政が破綻しても大きな痛みは伴いません。ですから、ウクライナを破綻させて、ロシアの影響力を排した状態で、IMFという国家再生機関の管轄下で財政を立て直させようと考えています。
過激な政治勢力
このように西部側市民と欧米、東部側市民とロシアという4つの思惑が入り乱れているウクライナですが、もう一つ、全ウクライナ連合「自由」という過激なウクライナ人至上主義の右翼勢力が存在します。
この極右勢力はファシズムやユダヤ人迫害等を公然と主張していますが、国会内での議席も伸ばしており、主要な野党として成長しています。この極右勢力が今回の西側市民のクーデターにあたっても中心的な役割を果たしていると考えられています。ナチズム的な思想を持つ極右勢力は本来なら欧米も好ましくは思わないはずですが、反ロシアの野党勢力として大きな力を持っているため、今回の内乱に関する報道でも、あまりこの極右勢力の存在は欧米側のメディアでは報道されていないようです。
ウクライナ情勢の経緯
親欧米市民による平和的なデモが続いていた
昨年の11月から平和的なデモが続いていました。これは親ロシアのヤヌコーヴィチ大統領がEU連携協定への署名を拒否したためです。
デモの暴徒化とクーデター
こうした平和的なデモが、今年(2014)の2月19日から暴徒化し始めます。
これは欧米のスパイが入った工作から暴徒化した可能性もあるそうですが、いずれにせよ暴徒化したデモは、アメリカやEUがこうした暴徒化した市民に対する軍や警察の武力行使を非難したこともあり、政治機関を占領し、ヤヌコーヴィチ大統領は東に逃亡します。このように、欧米諸国はIMF管轄下での破綻・再生の勧告や、軍・警察の武力行使の非難など、積極的な内政干渉を行いました。
ロシアの軍事介入
これに対して、黙っていられないのがロシアです。このままクーデターが政権を掌握し、ウクライナが破綻してしまうと、ロシアはウクライナから大量の借金を回収できなくなってしまいます。
こうして、ロシアはヤヌコーヴィチ大統領の保護を約束したり、大規模な軍事演習を国境付近で行うなど親欧米のクーデター政権を牽制していましたが、ウクライナ内部のクリミア自治共和国からの支援要請を受けて、遂にロシア領土内のクリミア半島にロシア軍を展開しました。
ウクライナ東部の動き次第では、さらにロシア軍がウクライナ領土内に展開する可能性も考えられます。
ウクライナがこれからどうなるか
東西分立の可能性
まず、ひとつ考えられるのが東側のクリミア自治共和国の独立、もしくは東西分立の可能性です。東西が分裂すれば、経済的に発展している東部がロシア側に付いて、ロシアからの援助を受けることになります。一方で西側ウクライナは借金未払いによるガスの供給停止等によって、経済的にもエネルギー的にも、とても厳しい状態に陥ることが予想されます。そうなると5月の大統領選挙では西側でも政治的に失敗したクーデター政権への反発が強まり、親ロシア政権が誕生する可能性が高まります。
ですから、ロシアは東西分立、クリミア自治共和国独立の方向性に持って行きたいと思っているのではないかと考えられます。
また、東側が含まれていなければ、欧米としてもウクライナ市場が開放されるメリットがあまりありません。ですから、欧米側はウクライナの分裂は避けたいところだと考えられます。仮にクリミア自治共和国等、東側が独立を宣言しても承認しないということが考えられます。
考えられる危険性
ひとつは、可能性は低いかもしれませんが、欧米とロシアの軍事衝突です。
もうひとつは、クーデター政権内の極右勢力による非ウクライナ人の弾圧や迫害です。ユダヤ人の弾圧があると、欧米諸国はクーデター政権支援から遠ざかることが考えられますし、ロシア人の弾圧があるとロシア軍がさらに展開を広げることも考えられます。
ですから、クーデター政権としては極右勢力の過激な活動は抑制したいところだと考えられますが、極右勢力の勢いを利用して5月の大統領選挙を戦いたいという思惑もあるようです。
※間違っている点などがあればご指摘いただければ幸いです。
参考
以下のウェブサイトを参考にしました。
急展開!内戦寸前のウクライナ情勢がどうしてこうなったのか分かりやすいまとめ
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