記事の目次
はじめに
昔は、多くの人に自分たちの曲を聴いてもらう(デビューする)ためには、レーベルに所属して、音源をつくり、全国のショップにCDを並べて、買ってもらう必要がありました。
しかし、インターネットによって状況は大きく変わっています。
そこで今回は、インディペンデントのアーティストが、どのようにしてファンやリスナーに音楽を届けることが出来るかを書いてみたいと思います。
この記事の内容
- 配信方法の選ぶときの考え方
- 無料リリースのおすすめサービスを比較
- 有料リリースのおすすめディストリビューターを比較
- 従来と今後のレーベルの役割
written by @raq_reezy
音楽や曲をリリース(配信・販売)する方法の選び方
音楽が曲をどのプラットフォームにリリースしようかと迷っている方には、以下の順番で考えてみることをおすすめします。
無料配信か有料配信か
まずは、無料配信(収益が発生しない)で良いのか、それとも有料配信(収益が発生する)が良いのかを考えてみてください。
(1)無料配信なら動画・音源アップロードサイトを使う
聴いてもらえればよい(収益は発生しなくて良い)ということであれば、動画・音源アップロードサイトにアップするのが一番手っ取り早いです。
動画を投稿するプラットフォームとしては、YouTubeとニコニコ動画があります。また、音源だけを投稿するプラットフォームとしてはSoundCloudがあります。
(2)有料配信ならディストリビューターを使う
収益も発生してほしいという場合は、TuneCoreなどのディストリビューターと呼ばれるサービスを使います。
これらのサービスは、Apple MusicやiTunes、Spotify、LINE Music、Amazon Music Primeなど、様々な音楽販売・ストリーミングサービスへの配信を代行してくれます。
ディストリビューターのサービスに登録をするだけで、数多くのサービスに自分の曲が配信されるので、めちゃめちゃ便利です。
配信先を絞るか広げるか
次に、配信先を絞るか広げるかを考えます。
例えば、なるべく有料で聴いてほしいからYouTubeやSoundCloudにはアップせずに、ディストリビューターを通じてストリーミングサービス等への配信だけ行うというのもひとつの考え方です。そこで、配信先を広げる・絞るメリットやデメリットを説明します。
(1)基本的には広げる方が聴いてもらえる機会は広がる
僕の考え方としては、基本的には配信先は広げるのがおすすめです。
なぜなら、多くの人は決まったサービスしか使っていないからです。例えば、僕は家ではYouTubeで音楽を聴くことがありますが、大部分はApple Musicで音楽を聴いています。また、中高生はYouTubeで無料で音楽を聴くことが多いですし、大人は広告等が入ると嫌なのでストリーミングサービスで聴くことが多いでしょう。
このように、それぞれのプラットフォームにはそれぞれ音楽を聴いてくれる可能性がある人がいます。そのため、なるべく多くのプラットフォームに配信することで、一人でも多くの人に曲を聴いてもらえる可能性が高まります。
「有料で聞いてほしいから、無料配信(YouTubeなど)はしない」とアーティストが考えたところで、そもそもApple Musicを契約している人はApple Musicにある曲を聴くし、お金がない人はYouTubeにある曲を聴くので、単にYouTubeで音楽を聴く層を逃している状態になります。
(2)配信先を広げると、再生数は分散するので少なく見える
一方で、多数のプラットフォームに配信すると、それぞれの再生数は分散します。
例えば、音楽を聴いてくれる可能性のある人が10,000人いるとして、YouTubeにだけアップするとそのうち7,000人が聴いてくれるとしましょう。残りの3,000人はYouTubeで音楽を聴きません。
このとき、YouTubeだけにアップすると(1人1回聴いてくれると超単純化すると)7,000再生ということになります。一方で、あちこちに配信すれば全員に聴いてもらえるので合計で10,000再生になります。しかし、YouTubeだけにアップしていれば、YouTubeで聴いてくれていた人が、あちこちにアップすることで他のプラットフォームで聴いてくれることになります。そうすると、YouTubeの再生数は7000再生よりは下がるでしょう。そうすると、YouTubeでの再生数という見た目が少し悪くなることになります。
このように、再生数とかの見た目を気にする場合は、配信先を絞るメリットがあります。
とはいえ、これはあまり本質的なことではないので、個人的にはなるべく多くのプラットフォームに配信することをおすすめします。
例えば、大人気アーティストのブラックベアはSpotifyから売れたので、売れっ子になった時点でもYouTubeの再生数はそれほどでもありませんでした。では、それで何か困るかといえば、何も困らないと思います。
音楽や曲を無料配信(アップロード)するのにおすすめのサービス
YouTube
無料配信する場合、第一に検討すべきがYouTubeです。
YouTubeの魅力はなんといってもユーザー数の多さ。なんと世界中で毎月20億人以上がYouTubeを利用しています。これは中国やインドの人口よりも大きな数字です。
YouTubeに曲をアップすることで、かなり多くの方に(知ってもらえれば)聴いてもらえる土台となります。
YouTubeのメリット
- 世界で20億人以上がYouTubeを利用しており、関連動画などで新しく知ってもらえる可能性がある
- チャンネル登録してもらえれば、新曲にも気付いて継続的に聴いてもらえる可能性が高まる
- 動画のアップロードが簡単で、アナリティクス機能も充実しているので、どんな人が聴いてくれているかも分かる
YouTubeのデメリット
- 動画サイトなので、ミュージックビデオなどを作らないと、他の音楽動画に魅力で負ける
SoundCloud
無料配信をする際に、もうひとつアップロードしておきたいのがSoundCloudです。
特に、インスト音楽や英語での音楽など、海外でヒットする可能性がある音楽をされている方は、必ずSoundCloudにも曲をアップすべきです。今では世界的なアーティストとなったポスト・マローンや、若手のリル・パンプなど、SoundCloudから火がついたアーティストは数えれば切りがありません。
日本では、SoundCloudから全国レベルに火がついたアーティストはいないので、日本人しか聴かないであろう音楽をやっている場合は必須ではありませんが、それでもアップしておいて損はないと思います。
SoundCloudのメリット
- 世界で月間2億人弱がSoundCloudを利用している
- 連続で関連性のある曲が再生されていく仕組みなので、新しく知ってもらえる可能性がある
- フォローしてもらえれば、新曲にも気付いて継続的に聴いてもらえる可能性が高まる
- リポストというリツイート的な機能があるので、バズる可能性がある
- 音源サイトなので、動画をつくる必要がなく気軽に投稿できる
SoundCloudのデメリット
- 動画サイトなので、ミュージックビデオなどを作らないと、他の動画に魅力で負けてなかなか再生が伸びない
ニコニコ動画
昔はサブカルチャーの最先端で、現在ポップシーンで活躍する多くのトップアーティストがニコニコ動画出身ですが、最近はYouTubeにユーザーの多くが流れて、すっかり勢いがなくなっています。それでも、自分の音楽の世界観がニコニコ動画と合う場合は曲をアップしておくと良いでしょう。
僕が音楽活動を始めた2010年頃にはニコニコ動画が盛り上がっていました。また「ニコラップ」というタグの新着動画を毎日チェックする人がたくさんいて、ある種のコミュニティのようになっていたので、音楽活動を始めたばかりの人でもたくさんの人に聴いてもらえるというメリットがありました。そのため、ニコニコ動画への投稿から音楽活動を始めています。
ニコニコ動画のメリット
- タグ機能があり、特定のタグ(2010年頃の「ニコラップ」など)の新着動画を毎日チェックしている人がいるので、適切なタグをつけると一定数に聴いてもらえる
- コメントやマイリスト機能があるので、曲の特定の場所に反応してコメントをくれたりと、反応が豊かで楽しく音楽活動ができる
ニコニコ動画のデメリット
- 月間ユーザー数が660万人と他のサービスと比べるとやや少なめ
- 昔ながらのインターネット的な世界観なので、そういうコメントがついたりする(そういったものが苦手であればデメリット)
音楽や曲を有料ストリーミング配信するのにおすすめのサービス
TuneCore
TuneCoreは、アメリカ発で世界最大のデジタルなディストリビューターです。日本では、TuneCore Japanという会社が運営しており、厳密にはアメリカのTuneCoreとは別物です。
シングルなら約1500円、アルバムなら約5000円という決まった金額を払うだけで、あらゆるプラットフォームに自分の音楽が配信され、そこからの収益は100%自分に還元されるという、めちゃめちゃ分かりやすいシンプルな料金体系に好感が持てます。
管理画面も見やすく、どの曲がどのくらい再生されているとか、どのプラットフォームでどのくらい再生されているといったことも管理画面で確認できます。
また、複数のアーティストでコラボした場合に、あらかじめ設定した割合で収益を各アーティストに勝手に振り分けてくれるスプリットという機能がめちゃめちゃ便利で重宝します。
TuneCoreのメリット
- 管理画面や使い方などがシンプルで分かりやすい
- 収益が100%還元される
- 複数アーティストでコラボした場合に、収益を自動で分配してくれるスプリット機能が超便利
TuneCoreのデメリット
- 配信するたびに料金が発生する(シングル約1500円、アルバム約5000円)
- オーディション系の情報提供などはあるが、基本的にサポートなどは特になくドライな関係
TuneCoreについて、さらに詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
Big Up!
Big Up!は、TuneCoreと同じようなディストリビューターです。
TuneCoreとの大きな違いは2点あります。ひとつは、無料で配信できる点で、その代わりに収益の20%はBig Up!の取り分となります。もうひとつは、日本のメジャーレコード会社であるエイベックスが運営しているという点で、その先の音楽キャリアにつながる可能性は相対的に高いと言えるでしょう。
Big Up!のメリット
- 初期費用なしでストリーミングサービス等に配信できる
- Avexが運営しているので、その後のキャリアに繋がる可能性がある
Big Up!のデメリット
- 収益の還元率が100%ではない
LANDR
LANDRも似たようなディストリビューターサービスです。
LANDRの特徴も大きく2点です。ひとつは、AIによる音源のマスタリング機能が付いていること。自分でマスタリング出来ない人にはおすすめで、僕の『Man on the Mars』は当時マスタリングの方法を知らなかったのでLANDRを利用しています。もうひとつは、月額1000円程度で配信し放題という価格プランです。たくさん曲を配信したい方にはおすすめです。
LANDRのメリット
- 定額で配信し放題なので、たくさん配信したい人であれば配信料が安くなる
- 音源の自動マスタリング機能がついているので、自分でマスタリングを出来ない人には便利
LANDRのデメリット
- 海外サービスなので、運営とのやりとりが英語になる(ディストリビューション系のサービスは権利関係の確認などのやりとりがわりと頻繁に発生します)
- 配信の審査がわりと厳しく、例えばビートのリース権利については10万回再生以上を買っておけなど、細かい指定が入ることがある
ディストリビューター3社を徹底比較
- 準備中
音楽や曲を販売するのにおすすめのサービス
Bandcamp
Bandcampはデジタル音源の販売サイトです。物理的なCDではなく、音楽ファイルを販売したい場合はBandcampが最適です。
BASEなどのショップ作成サービスにもデジタルファイルを販売する機能はついていますが、Bandcampは音楽を販売することに特化されているため、販売ページに試聴機能を設けられたりと、圧倒的に利便性が高いです。
また、機能は定期的に拡張されており、グッズや定額課金の提供も可能です。
Bandcampのメリット
- 音楽の熱心なファン/サポーターが利用している
- 試聴機能がついた利便性の高い曲販売ページを簡単に使える
- グッズの販売機能やアーティストごとのサブスク機能なども用意されている
Bandcampのデメリット
- 収益はPayPalでしか受け取れない
Bandcampについて、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
BASE
インターネットで、ダウンロード販売が落ち込み、ストリーミングが全盛期と言われている時代ですが、やはりCDを売ることにこだわりたい!というアーティストの方もいると思います。
そんな場合は、自分でショップを開店して注文を受け付けて、自分で発送作業を行うことで、流通業者の中抜きを防ぐことができます。
無料で簡単にショップをつくるサービスとしては、BASEが有名です。
BASEのメリットは、CDだけでなく、TシャツやiPhoneケースなどのグッズも販売することができる点にあります。
また、BASEではTシャツのデザインだけをアップロードしておいて、注文があったら勝手に刷って送ってもらうというサービスも利用することができるため、在庫を抱えずにグッズの販売を始めることができます。
音楽や曲の配信(デビュー)は個人で出来る
ミュージシャンやアーティストとして「何をデビューとするか」は難しいところがありますが、「音楽や曲を全世界に配信して、誰でも聴ける状態にする」ことをデビューとするなら、今の時代は個人でも簡単にデビューできます。
レーベルが担う仕事は減っている
元々、レーベルやレコード会社というのは、以下のような機能を担っていました。
レーベルやレコード会社が担っていた機能
- 音源の制作
- 音源の流通
- プロモーションやマーケティング
(1)音源の制作
昔は、音源を作ろうと思うとスタジオや機材など高価なお金が必要でした。この製作費や必要なスタジオなどを提供していたのがレーベルです。
しかし、現在はDTM(デスクトップ・ミュージック)といって、パソコンさえあれば、自宅の一室でも音楽を作れるようになりました。世界的なアーティストであるビリー・アイリッシュのファーストアルバムも自宅の一室で作られています。
もちろん、色んなアーティストやミュージシャンとコラボして曲を作りたい場合に自分に繋がりがなければ、そうした手配などをお願いできるというメリットがレーベルにはあります。その他にも、まとまった製作費が欲しいときにレーベルに(ある程度売れそうだと思ってもらえれば)まとまった製作費を出してもらえるといったメリットもあります。
しかし、自分一人で曲を作る分には、レーベルの必要性は薄まっていると言えるでしょう。
(2)音源の流通
以前は、音楽を一般家庭に届けるためには、CDを大量に用意して、全国のタワーレコードなどのCDショップに広く流通させる必要がありました。これを個人のミュージシャンが行うのは非常に難しく、どうしてもレーベルの手を借りる必要がありました。僕自身も、実際にKADOKAWA等の手を借りてCDをリリースしていました。
しかし、今となっては、CDで音楽を聴く人はほぼおらず、みんな基本的にはYouTubeやストリーミングサービス等で音楽を聴いています。現在のCDは、握手券やポスター引換券などを目当てに買われるもので、言ってしまえばファン向けのグッズです。
そうすると、単に音楽を流通させるだけであれば、YouTubeにアップしたり、ストリーミングサービスに配信するだけで良いわけです。これはディストリビューターと呼ばれるサービスを使えば簡単に行えます。
(3)プロモーションやマーケティング
音源を制作・流通させて、みんなに聴ける状態にするだけでは、曲は聴いてもらえません。その曲の存在を知ってもらう必要があるからです。
現在、力のあるレーベルから音楽をリリースする一番のメリットはここにあると言えるでしょう。
例えば、テレビ番組とのタイアップが出来たり、ライブがブッキングされたり、曲を多くの人に知ってもらえる機会が得られるように(レーベル側の力の入れ具合や担当者次第ではありますが)努力してもらえます。
もちろん、SNSがある時代ですから、自分の力でどんどん自分の曲を広めていくことは可能です。しかし、一方で音源の制作は大好きだけど、プロモーションは苦手だという人もいると思います。そんな方は、良いレーベルを見つけて、二人三脚で知名度を上げていくのも良いでしょう。
ファンベースをインターネットで先に築くのが主流に
ということで、音源の制作と流通だけなら個人でも出来ると書きました。そうすると、アーティストとしてデビューしたいと思ったときに、レーベルに発掘されるのを待っている必要はないわけです。
レーベルから華々しく売り出してもらいたいという方もいるかもしれませんが、現在はレーベルの担当者も、ライブだけではなく、インターネット上でアーティストを探しています。実際に僕がKADOKAWAからCDをリリースしたときも、YouTubeにアップしている曲をきっかけで連絡をもらいました。
今の時代、大手レーベルからデビューするというのはキャリアの出発点ではなく、自分の音楽キャリアがある程度の規模になったときに、さらにブーストしてもらう手段だと言えるでしょう。そのため、将来レーベルからデビューしたいと考えている方も、どんどん曲をリリースしていくべきです。
インディペンデントで活動できる時代
あちらこちらで言われていることですが、今はどんどんアーティストがインディペンデントで活動できる時代になってきています。
SoundCloudやYouTubeを大前提に、TuneCoreやBASEといったサービスを上手に利用して、音楽活動を楽しんでください。
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